宗教団体が一箇所に人を集めて投票させることも可能に

選挙ガバナンスという点では、海外は案外雑です。投票に立会人を立てたりする国ばかりではないのです。「日本式選挙」はとても日本的というか、きめ細やかで、厳しく運用されています。これはそれほど当たり前のことではないのです。

ですから選挙ガバナンスを一定の基準に保ったままオンライン投票ができるかというと、とても難しいし、極めてコスト高だと考えます。

なぜかといえば、1つ目は選挙ガバナンスを維持するコストが上乗せでいま以上にかかるからです。

たとえばオンライン投票できる人を投票日に宗教団体が1カ所に集めるとします。新興宗教の人が見ていて、「さあ投票してください」となると、選挙の秘密投票の原則を守れません。これは杞憂かというとおそらくそんなことはなく、日本には宗教団体など、利益団体がたくさんあります。あり得そうじゃないですか?

高齢者も同じです。病院などで認知能力が衰えた高齢者の方に対して、「おじいちゃんおばあちゃん、ボタンを押してあげますから」といったことも簡単にできてしまいます。随所でこういう選挙不正が起こる可能性があるときに、マイナンバーカードでは人間が介在する不正は防げません。

ですから、オンライン投票で従来の選挙ガバナンスの厳格さを維持するのは極めてコスト高だと考えられそうです。

開票作業にかかる時間が伸びてしまう

2つ目は、開票のコストです。

オンライン投票を現行の仕組みで導入する場合、普通に考えればおそらく紙の投票はなくせません。突然保険証をなくしてマイナ保険証にする国ですから、いきなり紙の投票を取りやめてすべて電子投票にする可能性はゼロとはいえませんが、いちじるしく低い。そうすると、多分、投票の種類が4種類になるわけですね。期日前投票と当日投票があって、投票用紙とオンライン。2通り×2通りで4通りになります。

投票結果を出すためには、これらを突合しなければなりません。そうすると、いまのように投開票から数時間とか、翌日までに投票結果を出すのは難しくなるはずです。二重投票や不正を弾く必要もあります。4通りの投票がきちんと統合的かつ横断的に運用されなければなりません。かなり大変そうです。