株式投資だけでなく自己投資も重要なワケ

3つ目の「比較優位の原則」は、本来は国家間の貿易に関する理論です。

国にはそれぞれ世界市場で優位にある産業があります。日本は自動車がそれにあたるでしょう。この場合「日本は自動車生産に絶対優位がある」と言います。絶対優位は「他者より得意な分野」と言い換えることができます。

日本はパソコンの生産でも他国を凌ぐ優位にありますが、このとき「自動車のほうがパソコンよりも相対的に生産効率がいい」ならば「日本は自動車生産に比較優位がある」と言えます。つまり、比較優位は「自分の中で得意な分野」と言い換えることができます。

両方を製作すればいいのですが、リソース(資金や時間や労働力)が限られている場合、「比較優位」に多く振り分けるほうがコスパは高くなります。

これを個人の実生活に当てはめるなら「自分が得意なスキルを生かして仕事をするのが、最もコスパが高い」と言えます。「自分の好きなことをやるのが幸せへの近道」などという感情論を語るものではありません。あくまで経済学理論に基づいて、人生を最適化するための考え方です。

職場では、仕事量の公平性や属人性なども踏まえなければならないので、「自分は営業が得意だから、事務作業はしない」といった考えは通用しにくいかもしれません。しかし、たとえば副業をやるのであればこの考え方をストレートに活用できます。比較優位でない仕事はどんどんアウトソースして、自分の得意に集中するほうが稼げます。

また、冒頭のドラム式洗濯機の話は「比較優位にない作業にリソースを割かず、時間を捻出する行動」とも説明できます。わが家は家事が比較優位になかったため、ドラム式洗濯機のあと、自動食洗器や自動掃除機やスタンドドライヤーを次々導入しました。

こうして捻出できた時間を、私はスキルアップや情報収集、副業(本の執筆)にあてました。その結果、収入は増えましたし、得られた資金で比較優位に投資をする好循環が生まれています。いわば「コスパの複利投資」です。

今どきは投資ブームでビジネスパーソンがこぞって「新NISAで何を買ったらいいか」「投資資金をどう捻出するか」を考えています。私も知人から“利害関係のないプロ”として意見を求められますが、本当におすすめしたいのは「コスパの複利投資」です。

金融商品は外部環境で目減りしてしまうリスクがありますが、身につけた知識やスキルがなくなることはありません。金融商品に投資するのは、時間を使いスキルアップして収入を増やしてからでも遅くないと思うのです。

【図表】最小の支出で最大の幸福を得る3つの経済学理論

※本稿は、雑誌『プレジデント』(2024年7月19日号)の一部を再編集したものです。

(構成=渡辺一朗)
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