女性ホルモンは高血圧や動脈硬化を予防する

さらに女性ホルモンは、いくつかの方法をとって血管壁に作用し、動脈硬化を抑える働きをもつことが知られています。

ひとつは、直接的に血管壁に作用する方法です。血管を拡張させる機能をもつ物質には、一酸化窒素とプロスタサイクリンが知られていますが、女性ホルモンは血管の内皮細胞に直接的に働きかけ、内皮細胞での一酸化窒素とプロスタサイクリンの産生を増加させます。そうすると血管は柔軟になり、拡張して血圧も下がります。

そのほかに、血管内皮細胞を増殖させる働きもあります。高血圧や高脂血症、糖尿病などにより血管内皮細胞が傷つくと、その場所は厚く硬くなってしまいます。しかし女性ホルモンの働きにより血管内皮細胞が増えると、傷ついた部分が再生するので、肥厚を防ぐことができます。

さらには、血管壁の大部分をつくっている血管平滑筋細胞に働きかけて血管平滑筋を弛緩させ、血管を拡張する効果ももっています。

このように様々な方法で、高血圧や動脈硬化の予防に大きな役割を果たしている女性ホルモン。その働きは狭心症や心筋梗塞などの心疾患、脳出血や脳梗塞などの脳血管疾患のリスクを下げ、女性の長寿に大きく貢献しているのではないかと考えられています。

動脈硬化のイラスト
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男性ホルモンが無ければ長生きするのか

ヒトに限らず多くの哺乳類で、オスはメスよりも寿命が短いことが知られています。

そのため、女性ホルモンの分泌量の差だけではなく、男性ホルモンそのものがオス(男性)の寿命に影響を与えているのではないか、とも考えられているのですが、男性ホルモンと寿命の関係には未だ不明瞭な点が多く残されています。

しかし、例えば去勢したラットやイヌは、去勢していないオスよりも長く生きることが報告されています。去勢とは、外科手術により精巣を除去することで、精巣がなくなってしまうと十分量の男性ホルモンが分泌されなくなります。

ヒトでも、去勢された場合の寿命について調査した研究があります。韓国の宦官の寿命を調べたものです。

宦官とは、去勢を施された官吏のことです。宦官の制度は古代から各文化圏に存在し、東アジアでは古代中国にはじまり朝鮮やベトナムなど、主に中国の勢力圏にあった地域に広がりました。

去勢手術は、もともとは刑罰として行われていましたが、皇帝の側に仕える地位を手に入れた宦官が多くいました。それゆえに、自ら志願して宦官となる者が後を絶たない時代もありました。

明の王朝時代は、10万人もの宦官がいたとの記録もあります。そのため、去勢手術を専門に行う役目の者がいて、外科手術により睾丸(精巣)と、地域によっては陰茎もあわせて切り落としました。