判決は執行猶予として最長の5年

検察官はこう責めた。

【検察官】5000円って、けっこうな額ですね。ただ会に参加するだけで、多くないですか? 何のお金だと。

【被告人】椅子を埋めてほしいと言われました。1人でも多くと言われ、29名も……(5000円は)アルバイト料です。会場を埋めるサクラのアルバイト……

交通費の話は出なかった。交通費込みで5000円と思われる。

裁判官は、たぶん個人的な興味なのだろう、ウグイス嬢の報酬を尋ねた。被告人は3万~10万円ぐらいと答えた。依頼を受ける政党は特に決まっていないとも答えた。

【裁判官】公職選挙法違反、とんでもない犯罪だとわかっていますか?

【被告人】はい、分かってます。

ここまでをメモって、私は途中で法廷を出た。別の法廷で、どうしても見逃せない交通裁判があったのだ。体はひとつ。仕方ない。

2週間後の判決を傍聴した。傍聴人は少なかった。間もなく別の2つの法廷でわいせつ事件が始まる。多くの傍聴人はそっちへ行ったのだろう。

この日の被告人は、薄いグレーのセーターに、黒色で短いジャケット、グレーのタイトスカート。ぴっちりして、後ろに深いスリットが入っていた。

【裁判官】主文。被告人を懲役8月はちげつに処する。この裁判が確定した日から5年間、その刑の執行を猶予する。被告人から金1万円を追徴する。

犯罪の報酬として得た金を取り上げるのが「追徴」だ(刑法第19条の2)。大きく全国報道された“サクラ事件”は、東京地裁の小さな法廷でこうしてひっそり終わった。

あとで5000円を返金した女性も有罪に

それから間もなく、別の「公職選挙法違反」の判決を私は傍聴した。なんと、上記被告人から声をかけられ、Bビルでの決起集会に参加して5000円を受け取った26人、あの中の1人を被告人とする裁判だった。

こちらの被告人も素敵な感じの女性だった。主に好奇心から参加し、あとでマズイのではないかと思って5000円を返したという。しかし有罪。判決はこうだった。

【裁判官】主文。被告人を罰金10万円に処する。その罰金を完納できないときは金5千円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。被告人から金5千円を追徴する。公職選挙法第252条第1項の期間を3年に短縮する。

第252条は「選挙犯罪による処刑者に対する選挙権及び被選挙権の停止」について定めている。執行猶予付き懲役刑の場合、猶予期間が明けるまで、選挙権および被選挙権は停止される。罰金の実刑だと5年間。それを3年に短縮したわけだ。

なお、この事件における立候補者は落選した。激励会、決起集会にサクラバイトを必要とするほど人が集まらない候補者ゆえに落選したのか? そこはわからない。

サクラの事件はときどき報道される。どの報道でもバイト代は5000円だ。サクラバイトはけっこう普通のことらしい。

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