ただの席埋めか、それとも投票取りまとめか
ただ人数を集めればいいってものじゃない。選挙のサクラは華やかできれいな女性がいい、なるほどねえと私は納得した。
現金の授受は大丈夫か、被告人はもちろん親友の秘書に尋ねたという。「自分の会社の社長が立候補するのではないから大丈夫」と言われ、他の人からも大丈夫と言われたそうだ。
【弁護人】選挙に(投票に)行かなかった人もいるのですか。
被告人はきっぱりと答えた。
【被告人】29人、1人も行ってません。
【弁護人】というのは、動員をかけたアルバイトというだけの……
【被告人】そうです。私の軽率な行動で29人の方にご迷惑をかけてしまいました。
完全に席埋めのアルバイト、サクラ集めの認識だった。ところが捜査段階の調書では、金銭を払って投票依頼をしたと自白したことになっている。さっき検察官は冒頭陳述で「投票及び投票取りまとめの報酬であることを知りながら……」と高らかに述べた。どういうことか。被告人はこう説明した。
【被告人】逮捕されて、とにかく人を集めなくちゃと思って、と話したんですが、一切聞き入れてもらえませんでした。唯一、聞き入れてくれたのは、勾留質問のときの裁判官でした。
検察はこうやって「自白」を引き出す
勾留質問とは、検察官による勾留(身柄拘束)の請求を許可するかどうか、裁判官が被告人から話を聞く手続きだ。裁判官は話を聞いてくれたが……。
【被告人】次の日、地検で検事さんから、「あなたの顔も見たくない、出て行け!」と言われました。そのとき、本当のことを言っちゃいけないんだと分かりました。
結局、裁判官は勾留請求を許可した。被告人は46日間も勾留された。
【被告人】とにかく、人が、自由を奪われて、昨日まで外にいた自分が……護送車の中から外を……まったく、精神的にも……
その果てに被告人は、自白調書に署名押印。起訴され、ようやく釈放された。検察の見立てに逆らって否認するなら、長く勾留して心を折り、自白を勝ち取る、それは日本の“有罪づくり”の伝統らしいと、傍聴席から垣間見えることがある。
【被告人】あと、新聞に何度も出たので仕事の信用を失いました。
この事件は、実名で全国報道された。記者クラブメディアは警察・検察当局の発表のままに報じる。それを世間は、まんま信じる。世の中はそうやって成り立っている。