公選法違反事件の裁判は粒ぞろい

今年の夏は東京都知事選、そして来年の夏は参院選がある。その間に衆院選もあるかもしれない。投開票が終われば、選挙違反の摘発が始まる。多くは略式の裁判か不起訴で終わっているようで、法廷へ出てくることはあまりない。

選挙演説中に手を振る候補者
写真=iStock.com/imacoconut
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私はこれまで事件数で1万1000件以上の裁判を傍聴してきたが、うち「公職選挙法違反」は11件だ。たった11件とはいえ、バラエティに富んでいる。たとえば……。

・○○党の議席を減らして民主主義を守るためにと、候補者に脅迫メールを送信した
・お世話になった候補者に投票させようと、自社の社員の住所を不正に変えた
・未成年に報酬を渡して選挙運動をさせた
・選挙資金として集めた金が余り、運動員に分けた
・選挙のポスターに落書きをした

今回は、なかなかに興味深い「サクラ」の事件をレポートしよう。数年前に社会を騒がせた「桜を見る会」ではない。商売を盛り上げるため仲間が客の振りをする、その仲間をサクラという。露天商(テキ屋)の用語らしい。

満席の法廷に現れた女性被告人

東京地裁、傍聴席20席の小さな法廷で「公職選挙法違反」の新件(第1回公判)があった。開廷5分前にドアが開き、たちまち満席に。東京地裁は傍聴人が異様に多い。一番人気はわいせつ事件で、次は女性被告人(※)の事件だ。本件の被告人は女性なのである。

※刑事裁判は「検察官vs被告人」、民事裁判は「原告vs被告」の構図となるが、テレビ・新聞は刑事裁判の被告人を「被告」と報じる。

被告人は、黒のタイトスカートのスーツに身を包み、まっ白なブラウスのえりを大きく出している。茶髪もハイヒールもお洒落だ。私は傍聴ノートに絵を描かない。言葉でスケッチする。「セレブ奥様風、ウエスト細っ!」と赤ペンで書いた。

いったい何をやったのか。起訴状の内容および検察官の冒頭陳述をまとめると、おおむねこんな事件だった。