頭ごなしの対話は、若い人の発想力を奪う

しかしながら、この提言を聞いたとき、私は雷に打たれたような気がした。なぜなら、私の研究の立場からは、「真理」のど真ん中だったから。今まさに、世界中のチームが身につけるべき資質。さすがグーグル、本当にいい企業なんだなぁと、ため息をついた。

ヒトは、発言をして嫌な思いをすると、やがて発言をやめてしまう。「こんなこと、上司に言ったって、頭ごなしに否定されるだけ」「親に言ったって、説教食らうだけ」「妻に言ったって、イラつかれるだけ」「夫に言ったって、皮肉が返ってくるだけ」――そんな思いを何度かすれば、浮かんだことばを吞み込むようになる。

最初の何回かは、浮かんだことばを呑み込むのだが、やがて、その人の前ではことばが浮かばなくなる。つまり、「感じる領域」と「顕在意識」を遮断してしまうのである。それは、とりもなおさず、発想の水栓を止めてしまうということ。つまり、いきなりネガティブな反応を返されると、ヒトは発想力を失うのである。発想力だけじゃない、自己肯定感まで下げてしまう。

グーグルは、斬新な発想で、今までにない世界観を作り上げてきたデジタル企業だ。こんな企業で、若い人たちの発想力を止めてしまったら、それこそ致命的なのである。

いま、どんな英才教育よりも大事なこと

もちろん、同じことが家庭にも言える。大人たちの、良かれと思って繰り出す「いきなりのダメ出し」が、子どもたちの発想力に蓋をしてしまうのである。同時に、自己肯定感も低くなってしまう。AI時代に突入し、人類に必要な資質は、発想力と対話力、そしてそれを支える自己肯定感に集約してきている。

今、どんな英才教育より、子どもたちの心理的安全性を確保しなければならない。

心理的安全性を確保するには、2つの原則がある。

(1)相手が話し始めたとき、いきなり否定しない

(2)相手に話しかけるとき、ダメ出しから始めない

否定もダメ出しも、もちろんしていい。ただし、いきなりしない。ただそれだけでいいのである。まぁただこれが、案外難しいのだ。