実名化は母親にとってプレッシャーになる
専門部会長の安部計彦先生からは教えられたことがあります。昨年、私たちが実母さんを説得し、個人情報を病院に預けていただくことができたケースがありました。それを専門部会で報告した際、安部先生から逆に「預け入れる際に実名を残さなくてはならないというのは母親にとってプレッシャーになる懸念がある」と指摘をいただきました。
私たちとしては、出自情報を預かることで、赤ちゃんが将来出自を知りたいと思ったときの助けになると考えたのですが、安部先生のご発言に、ゆりかごの原点に立ち返る思いがして感銘を受けました。ですので、今回の検証報告書には違和感を持ちました。
――違和感とは。
検証報告書といっても、熊本市の意向が強く反映されているのではないかと思いました。これを安部先生が認めて出されているのであれば、過去のご発言はなんだったのかという思いがします。
もし、これを熊本市が作成しているとすれば、専門部会の独立性に疑問が生じます。専門部会の役割な何なのかという話になるのではないでしょうか。
病院が母親の個人情報を保管すべきか
――前述のケースについて、検証報告書では個人情報を慈恵病院が保管するべきではない、という指摘がありました。
一民間病院が個人情報を保管し続けることについては私も賛成ではありません。ただ、現時点では、当事者が知られたくないと言っている個人情報を熊本市に提供すれば、公務員は法令に基づいて行動しなくてはならないため、児童相談所は児童福祉法27条に従って社会調査(※)をしなくてはならない立場だとされています。
※子どもや保護者などの置かれた環境、問題と環境の関連、社会資源の活用の可能性を明らかにし、どのような援助が必要かを判断するための調査
もし、世論が「社会調査をするべき」となった場合には、病院が提出した個人情報を基にした社会調査はしないという確約をもらわなくてはなりません。でも、熊本市のこれまでの姿勢を見る限り、それは不可能です。