すでに匿名性は守られていないという現実
――ゆりかごの運用が始まって17年経ってもなお、「出自」か「命」かを巡って専門部会と対立している状況をどう思いますか。
この検証報告書は、熊本という田舎で起きているこじんまりとした見解という程度の存在だったかもしれません。でも、全国を見回せば、私たちの活動を知って、孤立出産をめぐる状況に胸を痛め、理解してくださる方は増えています。
ゆりかごは育てられない事情のある女性が匿名で赤ちゃんを預け入れることのできる仕組みだ、というふうに社会の人たちは理解していたでしょう。ところが、この検証報告書は「社会調査を徹底せよ」と書いていますし、現実には預け入れられた179人のうち、135人について身元が判明しています。
しかし、ゆりかごに預け入れたあとに児童相談所が追跡調査をして母親を特定する行為(=社会調査)が行われていることを多くの方々はご存じない。ゆりかごに預け入れるほどに追い詰められた女性の身元を追跡する行為は、公権力による人権侵害ではないのでしょうか。ぜひ、社会で議論していただきたい。