「何をやっても揚げ足をとられる状態」

――質問状と書かれていますが、実際は抗議文です。

この検証報告書には問題があります。なぜなら、検証部会のメンバーは交代したのに、前任の検証部会長がとりまとめた第5回と、新しい部会長がとりまとめた第6回は、ほとんど同じ内容です。

前任の山縣文治部会長(関西大学教授)をはじめ、医師や弁護士など5人の先生方の検証部会とは対立していました。当時の部会は赤ちゃんの出自を知る権利が担保されないからゆりかごはダメだと言い、内密出産を検討するよう国に提言する、との立場でした。

そこで、2016年に私たちが内密出産に取り組む意思を表明すると、今度は法律がないのに許されないと言い出しました。何をやっても揚げ足をとられる状態でした。

しかし、2021年秋にメンバーが一新し、座長は安部計彦先生(当時西南学院大学教授、2024年現在、児童相談所検証機構代表理事)に引き継がれました。安部先生は山縣先生とはゆりかごに対して異なる立場であると明らかにされていたのです。

「出自」より「命」のほうが上回る

――どのように異なるのですか?

今でも覚えています。座長に就任されて最初に開かれた部会で安部先生はこうおっしゃったのです。「検証部会の役割は、赤ちゃんが安全に預け入れられたかどうかの確認である」と。ところが、今年6月に提出された第6回報告書では、第5回報告書と同じく「預け入れた女性の匿名性は容認できない」と書かれています。これには矛盾を感じます。

以前の検証部会は「命」より「出自」という立場でした。出自がわからない状態で赤ちゃんを受け入れるのは認められないとする考えです。安部先生はそうではないとはっきりおっしゃったのに、なぜ過去の検証報告書を踏襲する内容になるのか。

母親の手を握る赤ちゃん
写真=iStock.com/west
※写真はイメージです

――ゆりかごが始まって初めての検証報告書は、熊本県が設置して熊本市と共同で運営した検証会議が作成しています。2010年に熊本市が児童相談所を開設し、ゆりかごの専門部会は熊本市に移管しました。第2回以降、第6回まで検証報告書の中身にあまり変化がありません。今回、特に強く反発したのはなぜですか。

先代の蓮田太二理事長(※2007年にこうのとりのゆりかごの運用を始めた)は「言いたいことがある人には言わせておいたらいい」という考えでした。私たちも都度、訂正を求めるべきだったかもしれませんが、放置してしまっていた。そのことには反省があります。

一方で、実は私たちも「命」のほうが「出自」を上回るという考えを言い切れる自信がありませんでした。ですが、今でははっきりと「出自より命だ」と言い切ることができます。