社会から孤立し、わが子を棄てる母親
――根拠を教えてください。
私たちはこの3年、嬰児遺棄事件の裁判支援に関わってきました。鹿児島、札幌、岩手、東京、埼玉、愛媛など10件に上ります。膨大な裁判記録を読み込み、弁護士と議論をし、意見書を提出し、証人尋問に臨んだ経験からわかったことは、被告となった女性たちの社会からの孤立でした。妊娠の事実を誰にも相談できず、孤立出産し、死産した赤ちゃんを遺棄した、あるいは、生産だったけれどとっさに殺害してしまった人たちです。
また、当院が2021年12月から受け入れを始めた内密出産の女性たちは、産前から当院に入院し、産後も長い人では1カ月近く滞在します。彼女たちの生育環境や妊娠に至った経緯、発達の特性などを一定程度把握することができました。
遺棄事件の被告となった女性たちと内密出産の女性たちは、判で押したように、母親との愛着関係に問題がありました。そして、自分の置かれた状況を言語化して説明することが苦手な人たちでした。
匿名で預けられるから救える命がある
――そのことと「匿名性」の関係は。
「こうのとりのゆりかご」は匿名性を担保しているからこそ預け入れる人たちがいます。もし匿名性が守られなかったなら、預け入れを躊躇する人たちは必ず出てきます。そうなると、殺害・遺棄の可能性は高まります。
つい最近、預け入れにこられた女性が、匿名性は容認できないという報道を見て、預け入れをためらうというケースがありました。ただでさえ大変な思いをして熊本まで預け入れにきている女性が、「匿名性は容認できない」という報道により、育てられない事実と預け入れへの罪悪感の間に立たされて苦しんでいる。こういう事実もあることを知っていただきたい。
――三重県津市で起きた4歳児虐待死事件についても検証報告書は触れています。
2023年5月に津市で4歳の女児が母親からの虐待で亡くなりました(※)。6月に母親が逮捕され、報道で母親の名前を見た職員が気づいて記録を確認したところ、2019年2月に生後1週間で預け入れていたことがわかりました。当院がこの事実を公表したことについて、検証報告書は「プライバシーの侵害」と指摘しています。しかし、これはおかしい。