女性の共感が止まらぬ“正解コピー”とは

渡したくて買ったけど、渡せなかった。

商品を渡せなかったのだから、チョコレートを売りたいときのキャッチコピーとしては否定的な意見が出るかもしれません。しかし、リアルに感じませんか。

実はこのキャッチコピー、私の大学時代の友人が発した言葉なのです。何人かの、別の友人たちはこの言葉に触れて「すごくわかる」と共感していました。つまりこのキャッチコピーは「誰かに伝えようとして、結果的に複数の女性の共感を得たもの」と言えるのです。

誰かを思い浮かべて生まれたアイデアのほうが、結果的にみんなに伝わるもう1つ例を挙げましょう。私が敬老の日の啓発広告として書いたキャッチコピーです。

ばあちゃんはいつも、俺より長く手を振っている。

このキャッチコピーは、すでに他界した私の母方の祖母をおもって書いたものです。母の実家は熊本県の小さな町にありました。小学生の頃、夏休みには決まって熊本に帰り、1カ月を過ごしていました。

夏休みも終盤となる8月末。叔父に空港まで送ってもらうのですが、祖母は車に乗った私たちが見えなくなるまで(おそらく見えなくなっても)手を振っていました。その姿をずっと覚えていて、敬老の日をテーマにした仕事がきたとき、課題と祖母の情景が結びつき、このコピーが生まれたのです。

このキャッチコピーは、先ほどのバレンタインデーの言葉と同じく、私という1人だけの体験をもとにしています。

西島知宏『速案 誰よりも速くアイデアを生む15の公式』(フォレスト出版)
西島知宏『速案 誰よりも速くアイデアを生む15の公式』(フォレスト出版)

しかし、このキャッチコピーが世に出るや、多くの人から「自分の祖母を思い出して涙が出た」「このコピーを読んで、久しぶりに祖母に会ってきた」「私も似たような想い出がある」という言葉をいただきました。

つまり、たった1人の経験をもとに書いた言葉が、結果的に多くの人の共感を得たのです。「みんなが共感する敬老の日のメッセージはこんな感じだろう」というスタンスで書いていたら、こういう経験はできなかったはずです。

アイデアは、結果的には「みんな」に伝わるほうがいい。しかし、発想の過程においては、みんなを見るのではなく、たった1人の誰かを想像して発想すべきである。

課題に最適な誰かを思い浮かべて行うように心がけてください。

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