“子持ち様”の問題は税金や健康保険の助け合いとは違う

【エミン】社会内の制度設計であれば、みんな理解しています。僕もいずれは年を取るし、病気になるかもしれない。それは理解しています。国全体に広げれば、一人ひとりの負担は小さくなるけれど、会社は小さな組織でしょ。1人が機能しなくなると、周囲にものすごいしわ寄せが生じます。

これは会社の制度設計の問題で、会社が面倒をみるべきだと思うけど、会社がやらないから、他人のために自分を犠牲にしているような感じになってしまうのです。これはわかりますか?

【パックン】社員が10人の会社で1人が休んだときに、隣の人がその人の仕事をすべてカバーしなければならないなら、組織の問題だと思います。働き方の問題でもあります。

日本人が長期休暇を取れないのは、一人ひとりがすべてを担当しているからです。「自分の担当はこれ」「隣の人の担当はこれ」と仕事が分かれている。せっかくの組織なのに共有していないところに問題があると思います。

ヨーロッパでは1カ月程度の長期休暇を取るのは普通ですが、みんながお互いの仕事をカバーし合って、1人が抜けても周りの複数の人がカバーできるようにしているからできるのです。日本もそうすればいいと思いますよ。

それができれば、子どもが小さい人の仕事をカバーすることになっても、自分の仕事量が大きく増えるわけではない。最初からそういうリダンダンシー(余剰)が組織の中にあれば問題ない。全員がいるときには、重複している分効率が悪いと感じるでしょうけど、1人抜けてもカバーできる組織をつくってほしいですね。

日本の企業には組織に余裕がないことが大問題

――組織に余裕がないということでしょうか。

【パックン】そう。「パックンがいないからエミンさん、パックンの仕事を全部やってね」というのはでたらめです。何のための組織かわかりません。そうではなく「パックンの子どもが小さいから1年間は勤務時間が短くなります。その間10人に彼の作業を振り分けましょうとか、その間パートを1人、入れましょう」というなら問題ないでしょ。

エミンさんがいた会社は同じ給料を払っていたかもしれないけど、いまは育児で時短勤務をした場合、給料が減るのが普通です。たとえば、時短勤務する人の給与が6割になるなら、残り4割の人件費で1人増やせばいいと思いますよ。1日に4時間だけ働いてもらうとか。

お互いに支え合うのが企業であって、社会だと思うんです。僕はずっと病気していないけれど、健康保険料はずっと支払っています。だから、僕は健康保険に入って損をしています。でも弱者を守る社会であってほしいし、その社会は企業で成り立っているから、その企業がプチ社会として同じ制度になるのはいいと思っています。

企業には政府からの補助金も出ているでしょう。そう考えると、会社を休んでいる人の給料は僕も払っています。税金として。その人の世話をしているのは会社の人だけではありません。

そのしわ寄せが作業的な問題であれば、組織のトップに言うしかないです。日本の会社員が休暇を取りにくいのも同じ理由だと思いますね。エミンさんがいた会社は年間何日くらい有給休暇をとっていたのですか。

【エミン】日本の会社員が休むのは夏に1週間、年末年始に1週間くらいでしょ。それ以外はほとんど有給休暇を取っていませんでしたよ。

【パックン】それも問題だと思いません?

【エミン】問題だと思いますよ。思いますけど、そうなっています。

【パックン】産休や育休を取れるようにすると、長期休暇も取れるようになると思います。組織の中にリダンダンシーを作って、余裕を持てるようにすると、それは普通の社員、独身の方も含めて得するようになるでしょう。そのためにはマネジメントのスタイルを考え直す必要があると思います。