老後破綻へのカウントダウン

ところが森山さんの両親の問題は、これで終わったわけではない。なぜなら両親の貯金が、たった250万円になっていたからだ。

「両親の年金額は、ひと月あたり2人で合計22万円。母の施設代や医療費は、全部でひと月約16万円かかります。両親があと何年生きるかわかりませんが、あと2〜3年でどちらかが亡くならなければ、両親は老後破綻すると思います」

父親は役職に就き60歳まで。母親は52歳までバリバリ働き、それぞれそれなりの額の退職金もあったはず。それはどこへ消えたのか。

その答えのヒントは森山さんの1歳上の兄にあった。兄は大学受験に失敗して専門学校に行き、卒業後は父親のコネで就職。しかし続かず、38歳のときに突然「社労士になりたい」と言い出し、親のお金で再び専門学校に行き始め、晴れて社労士になると、上京。4年間は平穏に働いていたが、別の事務所に移った途端、うつ病を発症した。

「詳しくは聞いていませんが、兄は仕事で大きなミスをしたらしく、東京から逃げるように退職して北海道に戻ってから、働いていた事務所に訴えられたみたいです。うつ病なので戦うこともできず、示談金を払ったらしいのですが、それも全額両親が出しています。両親に貯金がないのは、母が定年後も生活レベルを落とせずに散財してきたせいと、兄に使ったせいだと思います」

その後も母親は、大事な兄にはダイソンの最新の掃除機を買い与えたにもかかわらず、森山さんには使い古した掃除機を売りつけるなど、子どもの頃から変わらずきょうだい間での“差”を見せつけ続けた。

ダイソンの掃除機
写真=iStock.com/AnthonyRosenberg
※写真はイメージです

施設に入った後も母親は、「食堂で食べるのが嫌だ」とワガママ放題。ひと月あたり8000円を払って、特別に居室に配膳してもらっている。それなのに施設の食事にほとんど手を付けない日も少なくないため、理由を調べたところ、週に1回来るヘルパーさんにお金を渡して、食べたいものを買ってきてもらっているということが発覚。

ある月の購入額は約1万6000円。内容は、総菜や冷凍食品、パンやカップラーメン、デザートなど。中でもコーヒーゼリーとプリンとヨーグルトは、ひと月に合計71個も購入していた。

「昔から買い物好きな人でしたが、思考の低下による同じ物の大量買い。認知症トラブルの典型です。施設の食事をなしにすれば4万5000円減になりますが、そんな単純な話ではありません。私が両親の介護のキーパーソンなので、請求書は私に届くのですが、正直なところ、目を通したくなくなります……」

俺様な父親

父親は人工透析こそ必要だが、うつ病は寛解し、認知症もなく、十分一人で暮らせていた。とはいえ、父親も問題がないわけではない。

2023年6月の中旬から人工透析になった父親は、少しでも出費を減らそうと、ありとあらゆる助成制度を調べ尽くし、手続きは娘の森山さんに丸投げしてくる。

「これまで、身体障害者手帳の引き取り、障がい者交通費助成、特定疾病療養受療証、自立支援制度など、何度も役所に足を運び、手続きさせられました。『手間賃は払うから』と言うけれど、口だけです。健全な親子関係なら親孝行になるのでしょうけれど、何せ昔から男尊女卑の毒父です。手続きすれば父には金銭的な恩恵がありますが、私にとっては精神的苦痛と時間の搾取。イライラしかありません」

現在父親が一人で暮らす実家の隣には、母親の妹とその息子夫婦が住んでいる。父親は図々しくも、「月に5000円払うから、週3回、透析の送迎をしてほしい」と頼んだのだと言う。

「タクシーだったら初乗り670円×3回×4週=8040円かかるところを、たった5000円で妻の甥夫妻に頼むなんて、『あなた何様?』と呆れました。それを父に指摘すると、『気持ちだからいいべや!』と怒鳴られました……」

森山さんによると、現在両親にかかる費用はひと月22万円の年金では賄いきれず、月5万3000円の赤字だという。母親にかかった費用は、父親を介して両親の年金や貯金から出してもらっているが、請求する度に父親は「貯金がなくなったら自殺する」とほのめかしてくる。

今年の3月には、「給湯器が壊れた! お湯が出ない!」と父親から電話があり、森山さんは泣く泣く、費用の半分を援助することに。

「次男の13歳の誕生日が迫っていたので、『誕生日プレゼントは渡してあげて欲しいけど、中学の入学祝いはいらないから給湯器代に充てて』と伝えました。父は『ありがとう。そうさせてもらう』と言いましたが、正直『孫のお祝いくらいは出すよ』と言って欲しかったです」