お見合いだけれど、ずいぶんいい人だった
私は22歳のときに結婚しました。お見合い結婚でございます。
「吉子、大田のところの孝全と一緒にならんかね。孝全は立派な男だから、うちの家族の面倒も見ることができるよ」
と、叔母が見合い話を持って来たのです。それまで私は男性とお付き合いしたことがありませんでしたから、「一緒になる」ということがどういうことか、当時はまったくわかりませんでした。
けれど、そう言われると急に孝全のことが気になりだすのです。同じ村の住人で、お互いの存在はもちろん知っていましたけれど、歳が5つ違うのでそれまであまり交流もなく、どういう人かよく知らなかったものですから。
そこで、まずは孝全を数日間観察してみることにしました。孝全が働いているところに顔を出してみたり、帰り道にちょっと話しかけてみたり。そうしたらね、ずいぶんいい人なんですよ。
あの人は大工だったのですが、「とってもまじめに働くし、穏やかな優しい人だな」と思ってお付き合いを始めました。
言い寄ってくる人はいたけど、一度決めたら一人きり
内地の人からは驚かれますが、奥間には昔、結婚前に両親公認で、お見合い中の男女を同じ部屋に寝かせる風習があったのです。まぁ、相性を確かめるっちゅうことなんでしょうね。
うちの父も、実家の手伝いに来た孝全に「今夜一泊してかんか?」と言って、うちの奥座敷に私と孝全を一緒に寝かせてしまいました。
孝全はその日、うちの修理や大工仕事をしてくれて、姉の面倒も見てくれました。「優しい人だな」「なんだか素敵だな」なんてぽーっとして、私もなんとなくそのまま一緒に寝てしまい、長男がお腹に入りました。たった1回きりで。なかなかすごいでしょう!
私は子どもの時分から「私が家を守らなければならない」と考えていたので、男の人には父や母、家族を一緒に守ってもらいたいと思っておりました。
叔母が言ったとおり、孝全はまさにぴったり。口数は少ないけど、まじめに働いて、両親にも子どもたちにも優しい人でした。
実は私、こう見えて若い頃はなかなかモテましてね。言い寄ってくる人はけっこういたんですよ。かなりの男前もおりました。
でも私は昔から一度決めたら絶対曲げない性格ですから、孝全と決めた日からずっと、あの人ひとりです。