5月28日、トヨタ、マツダ、スバルの3社が共同で「マルチパスウェイ ワークショップ」を開催。3社のCEO(最高経営責任者)、CTO(最高技術責任者)らが集結し、電動化に適合した新たなエンジン開発に関する三者三様のプレゼンテーションを行った。現地を取材したマーケティング/ブランディングコンサルタントの山崎明氏は「これは『脱炭素に消極的』と批判にさらされてきたトヨタの、事実上の勝利宣言だ」という――。
5月28日、トヨタの佐藤恒治CEO(左から3番目)、マツダの毛籠勝弘CEO(右から2番目)、スバルの大崎篤CEO(左端)らが一堂に会し、電動化時代に向けた自動車の新たな開発方向性を示した「マルチパスウェイ ワークショップ」。
写真提供=筆者
5月28日、トヨタの佐藤恒治CEO(左から3番目)、マツダの毛籠勝弘CEO(右から2番目)、スバルの大崎篤CEO(左端)らが一堂に会し、電動化時代に向けた自動車の新たな開発方向性を示した「マルチパスウェイ ワークショップ」。

真の脱炭素への「複数の道」

5月28日、「マルチパスウェイ ワークショップ」というイベントが報道関係者向けに開催された。このイベントがユニークなのは、トヨタ、マツダ、スバル3社合同で開催され、3社とも社長(CEO)が登壇するというものだったからだ。

「マルチパスウェイ」というのは「複数の道」という意味で、真に脱炭素の実現のためには電気自動車(BEV)以外の選択肢も同時進行的に用意しなければいけないという、トヨタが以前より主張している考え方である。マツダも以前からマルチソリューションという言葉でほぼ同様の主張をしている。

マルチパスウェイの中には、内燃機関(ICE)を利用するハイブリッド(HEV)やプラグインハイブリッド(PHEV)も含まれ、BEVはマルチパスウェイの1つでしかないという位置づけなので、トヨタは脱炭素に消極的と世界各国から、また日本でも一部メディアから非難されてきた。

しかし最近になって世界的に雲行きが変わってきた。BEVの販売が予想されていたほど伸びないことが明らかになってきたからだ。ここで、トヨタを中心とした日本メーカーの考え方が正しいことを改めて主張するのが今回のイベントの第一義的な目的だ。

トヨタが開発中の1.5L直列4気筒エンジン。
写真提供=筆者
トヨタが開発中の1.5L直列4気筒エンジン。

鈍化するBEV、飛躍するPHEV

現在BEVの世界販売を見ると、2023年のデータではBEVの約57%が中国で販売されている。続いてヨーロッパが約24%、そしてアメリカが約12%だ。なんとこの3地域で93%を占めている(データ:IEA)。逆にいうと、それ以外の地域ではBEVがほとんど売れていないことを示している。

もっともBEVが売れている中国だが、完全に国策としてBEV化を推し進めてきた。ICE車の購入には制約を設け、BEV購入には優遇税制を適用し消費者にBEVを買わせるよう仕向ける政策をとったのだ。

その結果、多数の企業がBEV市場に参加し、強烈な価格競争が起こっている。そのため消費者から見ればBEVは非常に買いやすい状況になり、2024年4月のデータでは自動車市場の約26%がBEVとなっている(データ:Cleantechnica)。

しかし、BEVの販売は伸びているものの、その成長率は鈍化しており、現在販売が伸びているのはPHEVなのである。4月のデータを前年比で見るとBEVは10%アップだが、PHEVは65%アップと飛躍的に伸びているのだ。

これは、PHEVにもBEVと同じような優遇策を適用するようにしたためだ。BEVだけですべての需要をまかなうのは難しいことが明らかになったための政策転換だろう。BYDも、現在ではBEVよりPHEVの販売台数のほうが多くなっている。