越えられない「充電問題」

私の家の電気代は計算すると1kWhあたり32.6円(2024年4月現在)だが、たとえばテスラ最強のV3(250kW)スーパーチャージャーで充電した場合、理論上の最大限の電力が充電できたとしても1kWhあたり58.8円かかる。

現実的には理論値より少ない電力しか充電できないので、家庭で充電する場合のおよそ倍の費用がかかる計算だ。120kWのV2スーパーチャージャーなら75円である。

日産のシンプルプランの場合、90kWの充電器なら66円、50kWの充電器なら119円かかり、かつ使っても使わなくても毎月1100円の基本料がかかる。しかも多くの充電器は50kW以下というのが現状だ。

これではユーザーは極力使わないで済まそうとするため、稼働率を上げるのは難しい。儲からないから値上げせざるをえない、という悪循環となる。

BEVの電費は6km/kWhくらいが一般的で、テスラの最善のケースでも走行1kmあたりの経費は約10円、外部急速充電のみで運用すると燃費が16~17km/lの車と同じくらいのランニングコスト(ガソリンをリッター160~170円程度とした場合)となり、燃費の良いハイブリッド車よりも費用がかかってしまう計算となる。

急速充電器の数は増えないが、行楽地などでは特定の時期だけ需要が集中するため充電渋滞が起こり、ユーザーサイドの使い勝手は非常に悪い。長距離移動にBEVを使おうとすると巨大なバッテリーを搭載した車が必要だが、それらは大きく重く高価で、買える人は限られる。

街中の短距離移動用のBEVは便利だが、それだけで用途のすべては賄えないから、自宅に保管場所のある複数保有世帯しか購入できない。やはり購入できる人は限られるのだ。

つまり、自動車市場の20~30%はBEVでカバーできる可能性はあるかもしれないが、それ以上にBEVを普及させるのは困難、ということが明確になってきたといえるのだ。

日本メーカーの深謀遠慮

温暖化対策のためにはCO2排出量を減らさなくてはならない。BEVが限定的だとすると、それ以外の需要はほかの方法で削減しなければならない。しかしCO2削減が叫ばれているにもかかわらず、自動車市場は大きく重い(=燃費効率が悪い)SUVの比率が高まってしまっている。

マツダのROTARY-EV SYSTEM CONCEPT(2ROTOR)。
写真提供=筆者
マツダのROTARY-EV SYSTEM CONCEPT(2ROTOR)。

アメリカでの運輸部門におけるCO2排出量は、BEVの増加にかかわらず2023年は前年比2.7%増えてしまっているくらいなのだ(データ:米国エネルギー情報局)。

日本のメーカーは最初からこうなると予測していたので、BEVへの投資を控えめにしてHEVを増やそうとしてきたのである。