有給取得拒否で有罪になるケースは稀
法制面のもう一つの課題として考えられるのが、「罰則が抑止力になっていない」実態である。有休を取得させないことが違法であることは確かだが、実際に刑事事件として裁かれる割合は低い。
労基署が労基法遵守状況に関して事業所を監督する件数は例年概ね12万~15万件程度だが、そこから違反が見つかり送検されるのは全国で毎年1000件前後。うち6割は不起訴に終わり、残りの4割が起訴され、何らかの司法判断が下ることになるが、1991~2018年の累計起訴数が1万6614件のところ、裁判の結果は、懲役31件、罰金(正式)253件、罰金(略式)1万3223件、無罪7件(以上合計で1万3514件)となっている。
それも、多くは賃金不払いや安全衛生法違反であり、「有休取得拒否」を理由として有罪になることなどめったにない。したがって、事業者は「有休をとらせなかったくらいで捕まることなどない」と舐めてかかっているようなもので、法律が十分な抑止力になっていない状態ともいえよう。
日本は世界でも珍しい「メンバーシップ型」
③ 労働慣行面
先述の「働く人のマインドと組織文化面」とも関連する問題だが、われわれの有休をとりにくくしているのは、わが国独自の「雇用慣行」に根本的な原因があると考えられる。以下少々専門的なお話となるが、お付き合い願いたい。
実は、わが国と諸外国の雇用慣行(システム)は大きく異なる。諸外国で主流なのは俗に「ジョブ型」と呼ばれるシステムだが、わが国は恐らく世界でも唯一といっていい「メンバーシップ型」と呼ばれるシステムをとっている。
ジョブ型とメンバーシップ型の雇用システムの違いは、一言でいうならば「人と仕事との当てはめ方の違い」と表すことができる。ジョブ型は「仕事に人を当てはめる」、メンバーシップ型は「人に仕事を当てはめる」やり方だ。
ジョブ型の国では、たとえば「セールスマネージャーは年収○円」「スタッフレベルのサポートエンジニアは年収●円」といった具合に、職場におけるあらゆる仕事に値札が付いている。
担当職務や責務、求められるスキルや資格、そして支払われる賃金までもが細かく規定されており、企業は職務を特定して募集をかけ、求められる資質をもった人がその仕事に応募し、雇用契約に明記された職務を遂行すべく働く形をとる。仕事に人を当てはめる形態であり、報酬は年齢や勤続年数に関係なく、個別の仕事の難度や希少性に応じて決まるので、「ジョブ型」雇用と呼ばれる。