一方的に「勝手に出て行った妻の方が悪い」と主張

調停では、こちらからは夫の暴言の証拠や夫婦の収入資料を提出して、「日常的に怒鳴られて辛かったので離婚したい、また離婚までの生活費を払ってほしい」と主張しました。

これ対して夫は、「家を出ていった妻はおかしい、反省してすぐに帰ってくるべきだ」「勝手に出ていったのだから生活費は払わない」といった主張をしました。

調停では、各当事者が交互に調停室に入り、調停委員から相手の主張を聞き、自分の主張を伝えます。当事者同士は顔を合わせないように配慮されています。

A子さんの夫は弁護士を依頼せず一人でやってきていて、長時間調停室に入り、いかに妻が悪いかを調停委員に話しています。

「妻の実家は家柄が悪いので本当は結婚したくなかったが、どうしてもと言われたので結婚してやった」
「妻は家事をまともにしない。怒鳴られたと言っているが、指導のために言っていただけである。妻は学歴が低いので指導しないとわからない。時には感情を高ぶらせたこともあるかもしれないが、それも妻に責任がある」
「自分は声が大きいだけなので、怖いと思うのは妻の受け取り方に問題がある」
「妻の両親にもたびたび指導を促してきたが、一向に改善されない……」

結婚前のことから毎日の生活態度に至るまで、夫は事細かにA子さんを非難します。そして、「自分に非がないので離婚しない、勝手に出ていった妻が悪いので婚姻費用も払わない」と主張しました。円満・修復とは名ばかりの、悪口のオンパレードです。

わずか2回で終わった円満調停

私から見通しを聞いてある程度覚悟していたとはいえ、A子さんは深く傷つきました。夫は、A子さんが仕事と育児で疲れている時にも全く家事を手伝わず、怒鳴るばかりで、それが辛かったのに、ここまで来てもこういった反論に終始する夫の姿勢に、A子さんはますます強く離婚の意思を固めました。

夫は、調停委員の方から、「修復というのであれば、同居中の問題点を話し合い、改善する道を探る必要がある」と説明を受けたようですが、「自分は悪くないので、妻が反省して謝罪したらやり直してもいい」と、取り合う様子はありません。

もはや修復とは名ばかりで、一般的な離婚調停以上にやり取りは紛糾し、円満調停はたった2回で終了しました。

離婚調停のイメージ
写真=iStock.com/fizkes
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