「小異を捨てて大同につく」姿勢
そこから4年過ぎてもリニア問題の解決の糸口は見えてこなかった。
そんな中で、鬼の首を取ったかのような川勝氏の言いたい放題が終わりを迎えた。
嘘やごまかし、あまりの言い掛かりなどが日常茶飯事となってしまい、不適切発言が続いたことで、最後は自分自身の首をしめてしまった。
突然の辞職に当たって、川勝氏は「リニア問題に大きな区切りがついた」と述べた。その理由に、国のリニア静岡工区モニタリング会議座長に矢野氏が就いたことを挙げた。
「矢野さんを信じている。任せられる。矢野さんにバトンタッチできる」などと述べていた。
つまり、川勝氏は昔から懇意の矢野氏に「リニア騒動」の混乱すべてを託すことにしたのだ。
矢野氏が静岡県のリニア問題を解決に導くキーパーソンであることは間違いない。
中日本高速道路会長だった矢野氏は2007年に川勝氏と初めて会い、環境問題の有識者会議委員に川勝氏を指名した。その縁で矢野氏は2011年4月から静岡県土地開発公社、道路公社、住宅供給公社を束ねるふじのくにづくり支援センター理事長を引き受けている。
モニタリング会議では静岡県、JR東海の代表者に忌憚のない意見を言ってもらい、矢野氏は「小異を捨てて大同についてもらう」のだという。つまり、大筋で一致させて、相互に協力させていくという姿勢である。
「不測の事態」でも揺るがぬ信頼関係構築を
2020年4月の金子社長の発言の前、2019年12月3日付産経新聞「主張」には以下の記事が掲載された。残念ながら、金子社長は読んでいなかったのだろう。
「リニア新幹線は静岡県内に駅がなく、その経済的なメリットは小さいとされる。川勝氏はことし6月にJR東海による経済的な代償を求める考えを示唆した。同社による一定の合理的な負担を含め、国交省が主導して環境対策などでも真摯な協議を進めるべきだ」
そこに静岡県のリニア問題をどのように解決すべきかのヒントがあった。
当時の金子社長の頭の中には、リニアは国家的な事業なのだから、国と有識者会議に、静岡県の言い掛かりを何とかしてもらえるという強い期待だけがあり、「一定の合理的な負担」という自分たちがすべきことを忘れていた。
トンネル工事ではいくら「不測の事態」が起きないよう求めていたとしても、またいくら科学的、工学的な議論を重ねても、「不測の事態」は起きてしまうことがある。
岐阜県瑞浪市のリニアトンネル工事で発生した湧水はまさに「不測の事態」なのだろう。
それでも湧水は現在も出続けている。その影響で、地域のため池や井戸で水位の低下が確認され、日常生活に支障が出ているから大騒ぎとなってしまった。
リニア南アルプストンネルでは大井川の湧水が毎秒2トン減少することが予測されている。実際には、トンネルを掘ってみなければ、どのような不測の事態が起きるのかわからない。
その前に揺るぎない信頼関係を築き、その上で「小異を捨てて大同につく」ことが理想的である。
83歳の矢野座長、66歳の鈴木知事、58歳の丹羽社長が一堂に会して、忌憚のない意見を交わすことから始めたほうがいい。