血合いを週3回食べ続ける実験からわかったこと

セレノネインは、2010年、当時の水産総合研究センター(横浜市、現・国立研究法人水産研究・教育機構 水産技術研究所)の山下由美子博士が発見した化学物質だ。魚の中でも生態系の上位を占めるマグロの身に、特に多く含まれていることが分かっていた。

山下博士がセレノネインを発見してから、マウスでの研究が進められたが、人への効果が明らかになったのは最近のこと。2021年から22年まで、神奈川県水産技術センター(三浦市)と国立研究法人水産研究・教育機構、聖マリアンナ医科大学(川崎市)が共同で実施した初の臨床試験だった

県と聖マリアンナ大の職員約100人を対象に、まずはマグロの赤身をそれぞれ週3回(1食80グラムまたは120グラム)、3週間にわたって食べてもらうことにした。

セレノネインは、およそ2週間で尿などからすべて排出されるため、この後3週間たってから、今度は血合いの部分を同じ条件で食べてもらい、血中濃度を測定。その結果、赤身を食べたときに比べ、血合いを食べた後のセレノネインの血中濃度の上昇率が、大幅に高いことが分かったのだ。さらに、クロマグロに加え、メバチマグロにも血合いに赤身の約100倍のセレノネインが含まれることが判明した。

マグロの血合いなどの刺し身
筆者提供
マグロの血合いなどの刺し身

自然界で最強クラスの抗酸化物質

セレノネインは抗酸化作用が抜群で、同センターは「人の血液に入って、“万病の元”とも言われる活性酸素を直接退治してくれる」といい、「遺伝子などにも危害を加えない自然界で最強クラスの抗酸化物質」と絶賛する。活性酸素の除去能力は、ビタミンEの500倍にもなるというから驚きだ。

人はストレスを受けると活性酸素が増え、病気発症のリスクにもつながることから、聖マリアンナ医科大の遊道和雄教授は「血合いを継続的に食べると抗酸化力が高まり、心身の健康維持に役立つ」と説明。実証実験前には、参加者のうち7割が軽度から強度のストレスを感じていたが、血合いを食べた後は、逆に7割が正常な状態となった。

このほか、アンチエイジング効果も認められ、老化防止への働きも期待できるという。前述の通り、セレノネインは体内におよそ2週間留まることから、毎日のように食べ続けなくてもいいのだからありがたい。

これだけの有効成分ならば医薬品やサプリメントなどが市販されていてもよさそうなものだが、発見されて日が浅いことから精製技術が未開発であるため、「例えば1グラム精製してサプリにするのに、現時点では100万円ほどのコストが掛かる」(研究機関)という。本格的な開発までには「あと20年以上が必要」(同)との見方もある。