寿司店に卸すマグロに血合いが混じるのはご法度

サバやブリ、サーモンなど、マグロ以外にも血合いはあり、刺し身や焼き魚で食べるとき、目にするであろう。マグロの場合、ほかの魚種とは違って大型は数百キロにも及ぶため、血合いの量も半端ではない。

首都圏の台所である東京・豊洲市場(江東区)では、競り落としたマグロを寿司店などに卸すため、仲卸が解体してブロックやサクに切り分けていく。すると頭やヒレ、骨だけでなく、身の一部である血合いといった副産物が生じてしまう。これら不要部は専門業者に引き渡される。個体差がかなりあるようだが、複数の関係業者に聞くと、血合いの割合はマグロ全体の平均3~5%といったところだろうか。

同市場のマグロ専門仲卸「大花」によると、日々何本ものマグロを扱うため、「血合いは1日40~50キロになる」という。業者には1キロ当たり数円で買い取ってもらっているというが、回収できるのは1日にせいぜい100円ほどと、ただ同然だ。

処理される血合いをよく見ると、赤身も混ざっている。完全に血合いだけを除去するのは至難の業で、特にカチカチの冷凍モノなら、電動式のノコギリで不要部を切り落とす際、赤身やトロの部分を確実にカットしようとすれば、骨や皮のほか赤身なども若干、一緒に切り落とさなければならない。

握り寿司にもマグロ丼にも血合いは使えないため、仲卸がお得意様である寿司店などにマグロを卸すとき、少しでも混ざるのはご法度だ。高価なマグロは売り値で1キロ当たり数千円となるため、血合いが含まれていては仲卸の信用が疑われてしまう。

豊洲の仲卸がカットしたマグロの血合いなどの端材
写真提供=市場関係者
豊洲の仲卸がカットしたマグロの血合いなどの端材

国産天然本マグロの漁獲量と同程度が廃棄されている

マグロ基地として知られる神奈川県の三崎港(三浦市)周辺の加工業者によると、「血合いは値が付かないため、毎月トン単位で廃棄している」(丸福水産)という。赤黒くて見た目が悪い上、すぐ生臭くなる。解体後、市場に流通することはほとんどなく、卸業者や水産加工場、鮮魚店などで廃棄処分されている。

水産庁によると、2022年の日本のマグロ供給量は天然・養殖を合わせて合計約31.2万トン。うち血合いを全体の3~5%と換算すれば、年間9400~1万5600トンにも上る。国産天然本マグロの総漁獲量にも匹敵する量が、生産されては廃棄されていることになる。

神奈川県三浦市の水産加工場で多く発生する血合い
筆者提供
神奈川県三浦市の水産加工場で多く発生する血合い

そもそもマグロには、健康面で優れた成分が含まれていることは知られている。マグロに多く含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は血液をサラサラにし、動脈硬化や心筋梗塞といった病気予防の効果があるとされ、中性脂肪を抑えてメタボ対策やダイエットにも有効だ。

そんな「健康食」ともいえるマグロのうち、なんと血合いにも貴重な成分が秘められているという注目すべき研究結果が最近発表された。「セレノネイン」という有機セレン化合物である。