「あえて不便にすること」が顧客の喜びに

改装によって客席の見通しがやや悪くなり、スタッフ一人ひとりに「自分が動かなくては」という意志が生まれたことで、お客様に呼ばれる前に自ら各席に向かうことが増えるなど積極的に動けるようになり、自ずとお客様から感謝される機会が増えてこれが自信につながった、という流れでした。

これに加えて、ベビーチェアや子ども用カトラリーといったお子様用品の置き場所を変更していたことにも起因しています。それまではお客様が誰でも手に取れる場所に置いてあり、「ご自由にお使いください」というスタイルでした。これを、客席のボックスシートの下にしまい込み、スタッフしか出せないように変更したのです。

以前は、お客様が「子ども用の椅子はありますか?」と催促するか、ご自身で取りにいくことばかりで、スタッフからベビーチェアを用意する割合は0%でした。ところが置き場所の変更後は、「よろしければお使いください」とスタッフが自主的にお渡しする割合が、100%になりました。

スタッフとしては、少し手間が増えることになりますが、あえて不便にすることで、お客様に喜んでもらえる機会を創出したのです。

もちろん、こうした変化はスタッフにおもてなし教育を施したから生じたわけではありません。ボックスシートの下にベビーチェアを収納したから、ただそれだけです。ちょっとした手間をかける工夫で、お客様に喜んでもらう機会が増えたわけです。

「ファインプレー」をスタッフルームで流し続けた

ただ、これだけでは一見、スタッフの負担が増えただけのようにも見えます。しかし実は、こうしたスタッフからの積極的な働きかけや、お客様へのサポートの様子を動画にして「ファインプレー」と称してスタッフルームで流し続けたのです。

我々はプロジェクトにあたり店内をくまなく録画し、動作を分析していますから、これらのファインプレーもすぐに見つかります。こうしたスタッフのファインプレーを動画にまとめ、スタッフルームで流し続ける。ファインプレーをした本人は、それがシェアされることで自信がつきますし、「いいことをすれば見てくれているんだ」とわかると、他のスタッフの行動も変わります。こうして、スタッフの仕事への自信が大きく高まっていったわけです。

現場スタッフの自信を高めるためにしたことは、設備の変更とファインプレー動画の再生だけです。教育の機会を増やすなどといった人的アプローチはしていないのです。自信を持てない人に、いくら「自信を持って」と言っても意味はありません。それよりも、自信をつけざるを得ない機会を創出し、それをキャッチアップしてファインプレーだと賞賛することが重要なのです。