「叱る」と「怒る」は違うと思います。先に善悪の判断が働いて、それが悪であれば善に導こうとするのが「叱る」。他方、一時的感情の吐露にすぎないのが「怒る」です。これを区別しない人がいるのは問題です。
従業員3000人の総合金融グループを率いる北尾吉孝氏は「叱り上手」としても知られている。北尾氏にとって、叱ることはあくまでも部下を教育するプロセスの一環である。
叱るときに大切なのは、部下を少しでもよき方向に指導するという姿勢です。ですから根底には必ず愛情がなければいけません。それと同時に、なぜ叱るのかを懇切丁寧に説明します。部下自身が間違ったことはしていないと思い込んでいるケースがあるからです。
しかし「できないことをやれと言われても無理ですよ」「どうやってやればいいんですか」と反論されることもあるでしょう。そこで「教える」という行為が必要になってきます。ただ単に叱るだけでは不足なのです。
「やってみせ 言って聞かせて させてみせ ほめてやらねば 人は動かじ」
これは連合艦隊司令長官だった山本五十六元帥の語録にある有名な言葉ですが、説明をし、実際にやってみせ、十分に納得させる。そのうえで、教えたとおりにできたら褒めてあげる。そこまでやらないと、人を動かすことはできません。その際、最も大事なことは褒めることだと思います。
言葉を換えれば、相手の自尊心を尊重するということだ。叱るときも同じである。
人を動かすには、叱り方にも配慮が必要です。たとえば「これは違うじゃないか!」と、頭ごなしにがんがん責め立てるのは良策とはいえません。僕の場合、たとえば「君ほどの人が」と一言付け加えます。
「君ほどの人が、どうしてこれくらいのことに気がつかなかったのか」
つまり相手を評価しているというメッセージをはさむのです。すると、叱られるほうも嫌な気持ちにならずに話の内容を聞くでしょう。