意思決定において、もう1つ大事なことは、自分が下した意思決定を貫くこと。神戸大学の平野恭平准教授が繊維産業で天然繊維から合成繊維に進出した企業の歴史を調べたところ、成功企業と失敗企業は、選んだ繊維の種類によって決まったのではないそうです。では何が明暗を分けたのか。それはある繊維を選んだ後、どれくらいそれに固執して頑張ったか、でした。

極論すれば、リーダーの意思決定に先見性は必要ありません。むしろ大切なのは、意思決定の後、その決断をどれだけ信じ込めるかです。わかりやすいのはメーカーの投資競争です。技術的に大差はなく、論理的にはどちらの選択もありうる状況の中、最終的に生き残ることができるのは、自社の意思決定を信じて投資し続けたメーカーです。幸之助さんは「必ず成功する方法はある。成功するまで諦めないことだ」と言いましたが、まさに意思決定を貫くことで道が拓けるのです。

では、どうすればリーダーは己の意思決定を貫けるのか。欠かせないのは周囲からのコンフィデンス(信頼)でしょう。単純な話で、この人の考えることは正しいとみんなが思ってくれたら、リーダーは一層自信を持って頑張れます。もう1つ大事なのは私心がないこと。この意思決定によって私腹を肥やそうとか、有名になってやろうという気持ちが見えるリーダーには誰もついていかない。最初の話に戻りますが、社会貢献を目的に掲げるリーダーが成功するのも、私心がなく周囲から信任を得やすいからだと思います。

成功するまで意思決定を貫ける環境を整えておくことも大切です。幸之助さんは「ダム経営」というスローガンを掲げて、利益を株主に配当するより会社の中に留保することを重視しました。これは短期的な利益に左右されることなく重要な意思決定を貫くためです。その精神は不変なのでしょう。2005年に松下電器は、不具合を起こしたファンヒーターと同時期に出荷したものをすべて回収するという意思決定を行いました。CMもすべて回収のための社告に替えて、しかも長期にわたって放映しました。それが可能だったのは、会社に十分な蓄えがあったから。リーダーシップを発揮して信じたことを貫くためには、それができるだけの経営体としての体力も必要なのです。