Q いま日本にこれらの条件を満たすリーダーはいるのでしょうか。

【加護野】私は期待していいと思います。日本型経営の評判が悪かった1990年代後半に、ある韓国人経営者は「日本の製品には品格があるが、韓国の製品にはない」と言った。真意を尋ねたら、「日本の製品は目に見えないところもきれいだが、韓国製品はそうではない。目に見えるところだけきれいにするのは合理的だが、それが韓国の限界でもある」と説明してくれました。たしかにそのとおりで、合理的に考えれば見向きもされないところに日本企業は力を注いできました。その蓄積によって品質が向上したりイノベーションが生まれ、それが日本企業の強みになっていた。

いまの日本に必要なのは、合理的判断に潜む限界に気づいて、長期的視野を持って確固たる意思決定をするリーダー。幸い幸之助さん以降も、そうしたリーダーはたくさんいます。例えばシャープの片山幹雄社長は、基幹工場である亀山工場の一部を中国に売却して、技術指導までするという決断をした。100年に1度の経済危機において、片山社長は急場しのぎではなく、それこそ100年に1度レベルの意思決定をしたわけです。ほかにもテルモの和地孝会長、シスメックスの家次恒社長、先に名前をあげたJFEの數土相談役など、優れたリーダーをあげれば枚挙にいとまがありません。株主重視で短期的な利益ばかり追いかけることに多くの人が疲れ始めたいま、こうしたリーダーは今後も続々と出てくるのではないでしょうか。

甲南大学特別客員教授 加護野忠男
1947年、大阪府生まれ。70年、神戸大学経営学部卒業。75年、同大学大学院博士課程修了。79年から80年までハーバード・ビジネス・スクール留学。専攻は、経営戦略論、経営組織論。近著に『松下幸之助に学ぶ経営学』など。
(構成=村上 敬 撮影=浮田輝雄)
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