Q しかし利益が出なければ会社は存続できません。社会貢献とどのように折り合いをつければいいのでしょうか。

【加護野】もちろん利益を度外視していいわけではありません。幸之助さんも社会貢献を掲げる一方で、利益にこだわって経営していました。創業者・中内功さんは幸之助さんと対立した経営者の1人でしたが、中内さんは最終的にダイエーを潰してしまった。その一因は、日本の流通を革命するという使命感が強すぎて、突っ走ってしまったことにあります。社会貢献の意識は、ときに暴走を生みます。社会貢献が企業をつき動かすアクセルだとしたら、一方では利益というブレーキも必要なのです。

かといって毎年、あるいは四半期で利益を追い求めようとすると、ブレーキが利きすぎて会社は失速します。大切なのは短期的な利益に右往左往せず、長期的視野で利益を捉えることでしょう。

そういう意味で言うと、時価会計が導入されたいまはチャンスです。時価会計では会社の資産を時価に直せます。だから工場に積極的に設備投資をして、その後に一気に損として計上すれば、以降は設備がタダ同然の値段になって使用できるので競争力を高めることができる。しかも、このとき計上する減損分は会計上の損であって、会社からキャッシュが出ていくわけではありません。時価会計ならば、こうした長期的な戦略を打ち出せるのです。ところが多くの経営者は短期で毎年、会計上の利益を出さないといけないと考えてしまい、大胆な決断をしようとしない。これじゃ会社はよくなりません。

幸之助さんは長期的視野を持った経営者でした。日本で最初に週休2日制を採用したのは幸之助さんですが、導入したのは会社が順調なときではなかった。むしろ会社として余裕のないときに、生産性を上げることを目指して週休2日にしたのです。他社がやっていない週休2日制をいち早く取り入れることは、短期的に見るとコストが上がり、マイナスだったでしょう。しかし幸之助さんは将来に向けて会社の競争力を高めていくために決断した。リーダーには、こうした長期的視野が必須です。

一時的にでも損を出すことは経営者にとって勇気がいること。それが将来の利益につながると理解されなければ株主は怒るし、従業員も怖くなって逃げ出してしまいますからね。その意味では一種の賭け、リスクテーキングです。しかし経営学には「リスクを取らないことほど危険なことはない」という格言がある。いま大きな問題が見えないからといってリスクを避けていると、じわりじわりと会社が悪くなっていずれ身動きが取れなくなる。やはり先を見越してリスクを取るべきです。

果敢にリスクを取れるのは、幸之助さんが創業社長だったからだという見方もあるでしょう。しかし、サラリーマン社長でもリスクテーキングすることは可能です。最近なら日本マクドナルドHDの原田泳幸CEO。マクドナルドはいま不採算店舗の整理を進めていますが、現時点では業績好調ですから、短期の利益を考えたら、そこまでやる必要はないはずです。しかし、会社の継続的な発展を考えて、あえて整理に踏み切った。創業社長だろうとサラリーマン社長だろうと関係ない。リーダーの意識の問題です。