「園庭のある保育園」にこだわって土地確保が難航

また、待機児童が多いのだから、あれこれ条件をつけずに、地下でもどんな場所でもいいから保育園を作れ、数を増やすべきだという声も強くなっていきました。区は、保育事業者への審査を厳しくやってきましたが、「世田谷区長は『保育の質』とか理想ばかり言っていて、困っている親の声を無視している」などという批判もたびたび受けました。

しかし、世田谷区ではかつて区立保育園で悲しい事故があった経験から「保育の質」に力を入れ、「保育の質ガイドライン」を策定してきました。子どもの育つ環境を無視する「とにかく数を増やせ」という考え方に与することはできない、保育園の数は増やしつつも、保育の質も必ず担保していくという姿勢を貫こうと原則を曲げずに取り組みました。とはいえ、それは簡単なことではありませんでした。

苦戦した理由の1つは、子どもたちが伸び伸びと遊べるよう「園庭のある保育園」にこだわったことです。園庭を含む十分な保育スペースを確保するためには、1000平方メートル前後の土地が必要になります。ところが、東京都心部に近い世田谷区は密集した住宅地が多く、まとまった土地や空き地はありません。保育園を新しく作ろうにも、その場所がまず見つからなかったのです。

公務員宿舎売却報道から政策のヒントを得た

どうするかと頭を悩ませていたときに目に留まったのが、ある新聞の記事でした。私は時間があれば新聞全紙を読むのを習慣にしていて、このときも記事から政策のヒントを得たのです。東日本大震災の復興財源を確保するため、財務省が「全国にある国家公務員宿舎の多くを廃止し、跡地を売却する」という記事でした。私は以前から、世田谷区にも国家公務員宿舎がたくさんあることを知っていたので、ピンと来ました。

すぐに知り合いの与党国会議員に「国家公務員住宅の跡地を、世田谷区で保育園用地として使いたいから、担当部署に紹介してほしい」と連絡しました。そこから、国有地を管理する関東財務局東京財務事務所と交渉を重ね、14カ所の国家公務員宿舎跡地について、長期賃貸借契約を結ぶことができたのです。

その土地のすべてを保育園にしたわけではなく、2つの大きな公園を整備するほか、同じく不足していた障害者施設や高齢者施設の用地にしたところもありますが、まずはある程度のまとまった保育園用地を確保することができました。

ただ、区の北部や西部などには国家公務員宿舎がもともとなかったこともあり、「これで十分な数の保育園ができます」とはいきませんでした。そこで、次に目を向けたのが農家の農地や資産を管理している農協です。区内の農家の方々には、今は畑として使わなくなった土地で駐車場を経営していたり、これからアパート経営を始めようと考えていたりする方がたくさんいると聞いていたからです。