「あなたの土地を保育園に活用しませんか」キャンペーン

とはいえ、いきなり「あなたの土地を貸してください」と言っても、すぐに了解してはもらえません。前例もないのに「土地を保育園に貸す」と言っても、なかなかイメージがわかないのでしょう。声をかけても「いや、駐車場やアパートにするつもりだから」といわれてしまう。

そこで、現場の区職員が紹介してくれた、大手不動産会社で長年、資産運用や相続対策のアドバイスを仕事にしていたという方を、区の特別職員として採用しました。この方に、農協も含めて土地を持っているオーナーさん向けの説明会を、区内各地で開いてもらったのです。

「土地の活用を考えたとき、アパートや駐車場は借り手がつかないこともあるけれど、保育園は20年間、区が借り上げるので安定していますよ」と説明してもらうと、「それなら貸してもいいかな」と手を挙げてくれる人が出てきました。1人2人が動くと他の人たちも、「じゃあ、区も保育園が必要だというし我々も手を貸そうか」と気持ちが動き始める。そこでさらに、キャンペーンを広く展開することにしました。

「土地建物を保育園に活用しませんか」「あと50件足りません!」というチラシを作って配布し、「あなたの土地や建物を保育園用地として登録してください」と呼びかけました。面白いもので、最初はなかなか動きがなかったのですが、あるときを境に急に申し出の電話が増え始めた。

そこからはもう、「うちの土地やビルのフロアを使ってもらえないか」という話が次々とやってきました。結果、314件の土地や建物が登録され、条件の折り合ったところで、31園の保育園を開園することができました。うち18園が、園庭のある認可保育園になっています。

固定資産税減免措置を厚労大臣に直談判

もちろん、ここに至るまでにはいくつものハードルがありました。民間の保育園用地を確保する行く手を阻んでいた原因の1つが、固定資産税の問題でした。

空いている土地にアパートやマンションなどを建てると、小規模住宅用地向けの特例が適用され、固定資産税が大幅に減免されます。ところが、保育園は住宅ではないので、特例減額の対象外でした。

もともと土地価格の高い世田谷区ですから、広い土地を持っているオーナーさんにとっては死活問題です。「だったら、やっぱり保育園よりアパートやマンションを建てたほうがいい」という声も上がっている。そんな話を耳にしていたとき、ちょうどタイミングよく、厚生労働省の呼びかけで「待機児童緊急自治体会議」が開かれたのです。

これは、国が待機児童の多い自治体を集めて、課題を話し合う場として設けられた会議です。待機児童が多い世田谷区は国から批判を受ける可能性もあったのですが、そこで逆にこちらから提案をすることにしました。

国会議員時代から親しくさせていただいた塩崎恭久厚労大臣(当時)を相手に、「待機児童がこれだけ社会問題になっているのに、税制がその解決を邪魔している。土地を保育園に提供したら固定資産税は100%減免になるなどの措置があってもいいのではないか」と直談判したのです。