保育園開設に手を挙げた事業者を「お断り」した理由

そうしたら、思いのほかスムーズに進みました。厚労省が財務省に税制改正を提案し、スピード改正が実現。待機児童解消のための緊急対策として、土地を保育園に提供すれば、固定資産税が100%減免されるようになったのです。さらに、賃料の高い都市部においては、自治体が賃料の一部を負担できるよう、国からも補助金を出してもらえることになりました。

また、先に述べたように、数を増やしていきながらも「保育の質」をどう担保するかも大きな課題でした。

そのために、保育園を運営する事業者は、すでに保育事業者として何園か運営している、実績のある事業者に限定することにしました。そして選定の際には、保育事業者が先に運営している園を、どんな遠くであっても職員や選考にあたる方が出張して直接見に行きます。子どもたちの食事内容や遊びの様子、保育者の子どもたちへの接し方を見て、「子どもが育つのによい環境が守られていない」と判断した場合は、区内での保育園開園を認めず、その事業者には任せないということを徹底しました。

待機児童がまだ1000人以上いた段階でさえ、土地を購入して保育園開設の手を挙げてくれた事業者に「お断り」をしたこともあります。そのくらい、「保育の質の担保」には徹底してこだわりました。

託児施設
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです

「静かな住環境を守れ」巻き起こった反対運動

さらに、土地が見つかって事業者もほぼ決まって、建設計画が動き出しても、今度は地元住民の反対というハードルにぶつかったことも何度かありました。「保育園が必要なのは分かるけれど、違う場所に作ってくれ」というのですね。「静かな住環境を守れ」という建設反対の横断幕が建設予定地に隣接して掲げられていた地域もあります。

他の自治体では、そうした反対運動を受けて建設計画が中止になったケースもあると聞きますが、私はそこは絶対にあきらめないようにしようと職員と話し合ってきました。

医療も年金も、元気な人が病気の人を、現役で働く人が高齢者を支えるのが社会保障制度です。社会は次世代がいないと成り立ちません。それなのに、小さな子どもたちを育てる保育園に「迷惑だから出て行ってくれ」というのでは、持続可能な社会は作れないと考えたからです。