気配りができなければ勤まらない仕事――その代表格がホストといえる。新宿歌舞伎町でナンバーワンホストとして君臨し、今は西麻布でプライベートバーを経営する夕聖さんは、お客に「楽しい時間をお渡しする」ために、観察と工夫を欠かさない。
例えば記念日には、どうやって気持ちを伝えるか。相手に正面切って「誕生日はいつ?」と聞いてプレゼントを用意したのでは“費用対効果”が低い。
「話の中でふと出てきた日にちを覚えておいて、突然プレゼントを渡しにいったりします。相手は教えたつもりがないから驚くし、僕はあなたのことをいつも思っていますという気持ちを効果的に伝えることができます」
相手が見てほしいところを発見したら、すかさず褒める。
「来店するたびに靴が違うお客さんがいました。あるとき『同じ靴は履かないんですね』と聞いたところ、私のことをちゃんと見てくれていると喜ばれました。靴を見る人は少ないんですね」
だからといってどん欲に相手のことを知ればいいというわけではない。必要なときには知らんぷりもする。
「仕事を忘れて飲みにきている方が多いので、仕事やプライベートのことは極力聞きません。全然関係ないバカみたいな話をして心から楽しんでもらいます。そして、相手が話し始めたら聞くという受け身の姿勢でいます」
プライベートには踏み込まないことが水商売の鉄則だが「お約束だから聞かないのではなくて、相手の気持ちを考えたら聞けないということなんです」。
電話はせずにメールを送ることも夕聖流の心遣いだ。「電話ではちょっとしたひと言が変なふうに誤解されることがあります。絵文字交じりのメールならストレートに想いを伝えられるし、面と向かって言いにくいこともさらっと言えるでしょ」。
夕聖さんは「緩急深浅自在」な気配り術を、どのようにして身につけたのだろう。
「場数を踏んでいるうちに自然に身につきました。ふだんから、言葉のキャッチボールをしながらお客さんの中にある“宝”を探すようにしています。ですが、見つかってもすぐには口に出さずに、大切にとっておきます。宝物ですから」
ホスト流気遣いは、感性と創造力をフル回転させて初めて得られるようである。
※すべて雑誌掲載当時