「ピンピンコロリ」が理想だけれど

多くの人は、「ピンピンコロリ」で死にたいと願っています。生きているときは元気に暮らし、死ぬまで家族に迷惑をかけず、自分も苦しむことなくぽっくり死にたいと。

たしかに死ぬ直前まで健康でいられて、痛みや苦しみがなく、ある日突然天に召されたら、それが一番幸せなことですよね。まさに、「ピンピンコロリ」は理想の死に方ともいえます。

でも、実際に「ピンピンコロリ」で亡くなる方はそう多くはないはずです。

令和3年の簡易生命表によれば、日本人の平均寿命は、女性が87.57歳、男性が81.47歳です。

平均寿命というのは、その年(令和3年のデータなら令和3年)に生まれた赤ちゃんが亡くなるまでの平均余命を指します。つまり、令和3年生まれの赤ちゃんは80歳以上になるまで生きられそうですよ、ということになります。

では、高齢者の平均余命はどのくらいあるのでしょうか。

前述のデータによると、令和3年時点で65歳の女性の平均余命は24.88年(89.88歳)、65歳の男性の平均余命は19.85年(84.85歳)です。

同じく、75歳の女性の平均余命は16.22年(91.22歳)、男性は12.42年(87.42歳)です。

このことから、65歳以上の方でも80歳以上まで生きられるという予想が出ていると理解できますね。

この平均余命まで健康に元気に暮らして、平均余命に達した頃にコロリと天国へ行く人が多い……わけでは、当然ありません。

では、私たちが病気や障がいがなく元気に過ごせる期間は、一体あとどのくらいなのでしょうか。

それを知るための指標に「健康寿命」というものがあります。令和元年、日本人の健康寿命は、女性が75.38歳、男性は72.68歳という結果が出ています(厚生労働省「健康寿命の令和元年値について」より)。

ということは、先ほどの平均余命と健康寿命を比べると10年くらいの差があることがわかります。

最後の10年間をどう生きるのか

この約10年の差は、一体何を意味しているのでしょうか。

それは、私たちが「死ぬまでの約10年は、健康に過ごせない」ということを示しています。

つまり、寿命が訪れるまで約10年もの長い間、私たちは何らかの病気や障がいを負って、日常生活に制限があったり、寝たきりや認知症で介護が必要な状態になっているかもしれないということです。

入院中の高齢者
写真=iStock.com/Kapaopae
※写真はイメージです

私たちが理想とする「ピンピンコロリ」は、健康寿命と平均余命がイコールでなければ実現しません。それなのに、10年も不健康に苦しみながら生き続けなくてはならないなんて、まさに生き地獄……。想像しただけで恐ろしくなります。

そんな怖いことを今から考えるなんて、ちょっと嫌ですよね。誰もが、不健康で苦しむとは限りませんし、自分はピンピンコロリで死ねるかもしれないと、そう希望を抱いている人もいるでしょう。

自分が死ぬまでの間、不健康に過ごす10年間を想像し計画を立てるなんて、楽しいものではありません。

でも、その辛い作業から逃げずにきちんと向き合い、準備をしている人がいます。それが、愛され高齢者の方々です。

現実から目を背けずに、きちんとそのときのために準備してきたからこそ、最期まで自分らしく生きることができたのでしょう。