提案だけでは終わらない
グッズ展開も始まり、2023年末からは柳川本店で「カバ印アイスキャンデー型消しゴム」の販売開始。もちろん、どんなグッズを作るかという企画段階から浅羽さんも参加している。
このインタビューの際、「デザインして終わりじゃなくて、コンサル的に経営相談も受けているんですね」と伝えると、「経営相談っていうか、みんなで一緒にこういうのやりたいねって話してるだけなんです」と照れ臭そうに笑った。
「テレビ局の密着取材が入って、椛島さんのところの打ち合わせに同行してもらった時も、いろいろ話して帰ろうとしたら、『打ち合わせはいつ始まるんですか?』と聞かれました」
明治32(1899)年創業の和菓子店、村岡総本舗の仕事も、社長の村岡安廣さんとの雑談から始まった。ふたりは、佐賀県の食品メーカーが名を連ねる特産品開発の会合で知り合った。
顔を合わせて何度目かの時、「アイスのなかに羊羹が入ってるやつとか作ったら面白いんじゃないですかね」となにげなくアイデアを出したら、「やりましょう」という展開に。
アイスといえば、椛島氷菓。浅羽さんが両社をつなぎ、2016年4月、村岡総本舗の羊羹をミルクアイスで包んだ「ようかんアイスキャンデー」が発売されると、浅羽さんも驚くほど「すっごく売れました」。
「それ以来、社長からときどき『お昼をご馳走します』と電話がかかってきて、ふたりで昼ご飯を食べながらなんだかんだ1時間ぐらい話して帰るっていうのがずっと続いていました。これってコンサルっていうより、お昼を食べる相手って感じですよね」
「絶対売れる」の粘りから生まれた缶入り「シベリア」
ランチの間に、いろいろな話を聞く。そのうえで、浅羽さんは「この人と組んだら面白いかな」と感じた人を村岡総本舗に連れて行った。そのうちのひとりが、三越伊勢丹の敏腕バイヤーMさん。Mさんはかつて、あんこや羊羹をカステラで挟む和菓子「シベリア」を、虎屋と福砂屋のコラボで作って大ヒットさせた経験があった。
Mさんが「どこかのカステラ屋と組んで村岡総本舗でシベリアを作ることは可能ですか?」と尋ねると、村岡社長が「以前はカステラを作っていたので自社で焼けますよ」と答えた。
こうして2019年に生まれたのが、独特のシベリア。よく売られているのは、あんこか羊羹のどちらかをカステラでシンプルに挟んだものだが、村岡総本舗では自家製のあんこを羊羹とカステラの間に挟み5層構造にした。これをホールケーキのようなサイズにして、三越伊勢丹のお歳暮ギフトとして販売したところ1セット5000円の商品が完売した。
浅羽さんはそのシベリアを、自社店舗での販売用に小型化し、紙で包んで販売することを提案。この時も、八智代さんが「ロシア的な伝統工芸の刺繍の文様とかを調べて」最初にデザインしたクラシックな包装紙が採用された。これが販売されると、大きな反響を呼んだ。