1週間ですべてが正常値に回復し、手術は中止に

そして1週間後、その女性患者がシャント手術を受けるため、病院を受診して採血を行うと、なんとすべてが正常値に回復していたという。もう治療や手術、まして透析をする必要はないと担当医が判断した。

実はこれは20年前の話。益子医師は当時、自身もサプリを摂取していた。そしてサプリは「食品の扱い」だから多少目安量をオーバーして飲んでも大丈夫だろうという軽い気持ちもあったそうだ。ところがこの一件以降、ほかにも数人の患者がビタミンDとカルシウム摂取で腎機能が悪化したのを目の当たりにし、サプリは薬と同様の構えで対処しなければならないと考えを改めたという。

糖尿病専門病院神保町代謝クリニック院長の益子茂医師
筆者撮影
糖尿病専門病院神保町代謝クリニック院長の益子茂医師

東邦大学名誉教授で平成横浜病院総合健診センター長の東丸貴信医師も、「ある種のサプリを十分な量摂取すれば効果はあるでしょう。一方で薬の副作用のように有害なことも起こり得ます」と指摘する。ある男性患者の事例を紹介してくれた。

「日常的にジムで筋力トレーニングをするような健康的な40代男性が、筋肉量維持のためプロテインを飲み始めたのです。ところが飲み始めて2週間くらいで倦怠感を自覚し、1カ月後に当院を受診しました。検査の結果、肝機能障害と軽度の腎機能障害が認められたのです。プロテインの摂取と筋力トレーニングを中止してもらうと、1カ月後の検査データでほぼ正常化しました」

眼科や整形外科の処方薬でも油断はできない

2つの事例は、腎臓や肝臓の機能が元に戻ったからまだいいが、過度な負担で機能低下を起こせば、場合によっては元には戻らなくなる。

益子医師が再びこう話す。

「サプリや薬の代謝には腎臓や肝臓がかかわりますが、なかなか機能低下がわかりにくいのです。ある患者さんに降圧剤を投与し、1~2カ月おきに血液検査を行って経過を観察していました。服薬してしばらくは変化が見られず、もう副作用は考えなくてもよいと安心していたのです。しかし1年後くらいにそれまでの全経過をみたところ、降圧剤による腎臓の機能低下が明らかになったことがあります」

サプリの場合も、長期的に摂取をするなら、3カ月、6カ月、1年後というスパンで注意して経過をみたほうがいいという。

「サプリは食品の扱いというように有効性は低く、安全性が高いものが多いです。薬のように有効性が高ければ、当然副作用のリスクもあがりますからね。けれども中にはビタミンDのように有効性レベルが高いサプリもありますから油断できません。また、薬などとの相互作用も考える必要があります。患者さんは眼科や整形外科で処方される薬を軽く考えがちな上、それらの科ではあまり採血検査を行いません。ですがサプリと処方薬の併用は、どの科の薬でも慎重に考えなくてはならないのです」(益子医師)