都市部のスーパーに例年出回るのは兵庫県産

一方、兵庫県の漁は沿岸でなく、遠い沖合での底引き網漁でホタルイカが漁獲される。兵庫県漁業協同組合連合会(明石市)によると、漁獲時に船上で凍結されるため、漁港に水揚げされるときには「ほとんどが死んでいて、青く光ることはない」(同)のだとか。まさに漁業だけの世界で、観光客が見学することはできない。

兵庫県内のホタルイカ水揚げ量は、2017年には5000トンを超え、昨年は約2700トンで低調だったという。今年は富山県同様に順調な水揚げがみられ、漁港は大盛況。県内外に春の味覚が流通し、東京など都市部のスーパーなどでも大量に売られている。

兵庫県のホタルイカ水揚げ量のグラフ
兵庫県但馬水産事務所のデータをもとに作成

富山県と兵庫県のホタルイカ。味は大差ないようだが、見た目は大きく違う。産地を中心に一部は生のまま流通しているが、大半はそれぞれ漁港付近の加工場でボイルされ、広域的に流通し、スーパーなどの店頭に並ぶ。明らかに富山県産のほうが大粒で、筆者が重量を測ってみると富山県産が5~8グラム、兵庫県産が3~5グラムといったところだ。

富山県産(左)と兵庫県産のホタルイカ(右)
写真=筆者提供
左が富山県産、右が兵庫県産

豊洲市場でも富山県産の仕入れにシフトする動き

豊洲市場の卸値は富山県産のほうが高く、例えば不漁だった昨年の4月中旬は、富山県産がトレー1枚(300~400グラム)当たり1200~1300円で、兵庫県産が同400円前後。3倍くらいの差があり、スーパーなどの小売りでは主に兵庫県産を扱い、富山県産は料理店向けなどになっていた。したがって通常、ホタルイカといえば一般には、兵庫県産がポピュラーな存在なのだ。

ところが、今シーズンは事情が違う。すでに店頭で「今年のホタルイカは大きいな」と感じた人も多いだろう。豊洲では富山県産の豊漁を受け、4月中旬の卸値は1枚500円前後の安値に。兵庫県産は同400円前後と例年と大差なし。

豊洲の競り人によれば、「スーパーなども春の特売対象として、これまで兵庫県を扱っていた業者が富山県産に切り替えたり、兵庫県産と一緒に扱ったりという傾向が目立ってきた」という。料理店の一品料理でなくても、気軽に富山県産の「大粒・腹ワタいっぱい」の濃厚な味を楽しめるというわけだ。