「報道に先駆けて辞任」の効果
不倫に限らず、メディアが騒ぐ前に先回りして辞任してしまえば、攻撃されるリスクは大きく減る。リスク管理は、まさに「先手必勝」の世界である。
アウトドア用品メーカーのスノーピークは、2022年に山井梨沙社長(当時)の不倫による辞任を発表した。他にも不倫ではないが、2022年から2023年にかけてENEOSグループの経営者が相次いで女性に対する不適切な行為によって辞任をするという事態が起きた。
これらのケースに共通するのは、メディア等の第三者によって明らかにされる前に、先回りして辞任を発表している点にある。また両者ともに、発表当初はメディアで報道されたが、大きく叩かれることもなく、すぐに鎮静化している。
人々は、地位のある人を叩き、その地位から引きずり降ろすことには興味はあるが、地位を失った人を叩いたり、さらに引きずり降ろしたりしようとは、大半の人は思わない。
「水に落ちた犬は打つな(不打落水狗)」という中国の故事がある。これは、平穏に社会生活を送る知恵であるし、島国日本においては、なおさら重要な教訓でもある。
経営者が突然辞任することによって、社内は混乱を招くであろうし、カリスマ的な経営者であれば、後継者や今後の事業への影響も大きく、後始末は大変になる。しかし、スキャンダルの部分を切り離してしまえば、後継者は、社内の体制構築に専念することができる。
「辞任で事態収拾」は正しい方法か
しかしながら、辞任によって事態を収束させることが、果たして正しい選択といえるのだろうかという根本的な疑問は残る。
ENEOSグループの場合は、経営者の地位を利用したセクハラ行為であるから、辞任は当然のことだ。しかしながら、スノーピークの山井梨沙元社長の場合、不倫の相手は「一般男性」のようで、経営者として問題がある行動であったとは言い難い。梨沙元社長が辞任を選択したのは、女性であり、当時34歳と年齢が若かったことも大きかったように思う。
そこそこ年齢のいった男性だったら、たとえメディアで報道されたとしても、辞任に追い込まれることはなかっただろう。実際、2023年にホットヨガ最大手「LAVA」の運営会社の社長(当時63)が、不倫相手の女性と性病感染をめぐってトラブルになっていたことが週刊誌で報道されたが、現在に至っても辞任はしていない。
2021年、YouTuberのマネジメント大手の「UUUM」の創業者兼代表取締役社長(当時)の鎌田和樹氏の不倫報道がなされた。若手起業家として目立つ存在でもあったため、不倫騒動は注目され、批判を浴びもしたが、謝罪と役員報酬の返上を発表し、辞任は免れている。
ホリエモンこと堀江貴文氏は「結婚してる奴は大体不倫してる」と言っている。これは事実とは言えないと思うが、不倫している経営者は少なからずいるには違いない。不倫は決して褒められたものではないが、「不倫は辞任」がスタンダードになってしまうと、収拾がつかなくなってしまうだろう。