有効だった意外な薬

アメリカ、ワシントン大学の研究グループは、自己申告による睡眠の質の低下だけでなく、アクチグラフ(腕時計型の睡眠計)で計測した睡眠効率の悪さが、翌日の腹痛や不安、疲労の強さの予測材料になったことを示しました(22)

不眠症で寝付けない男性
写真=iStock.com/yanyong
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そのほかにも、アメリカ、メイヨークリニックの外来患者の調査で、睡眠不足を訴える患者のうち、33.3%が過敏性腸症候群であること(23)、夜間オンコールのある研修医の19%が過敏性腸症候群であり、睡眠時間が短い研修医ほど過敏性腸症候群の症状が出る頻度が高い(24)など、睡眠不足や睡眠の質の悪さは、過敏性腸症候群の要因になっています。

過敏性腸症候群の治療用に、現在ではいろいろな薬剤が発売されており、便秘タイプ、下痢タイプ、下痢・便秘混合タイプによって、薬剤を使い分けます。しかしこれまで述べてきたように、睡眠のコントロールも、過敏性腸症候群の治療にとって重要です。

新しい試みとして、メラトニンが過敏性腸症候群を改善する臨床研究のデータがあります。2週間のメラトニン投与で過敏性腸症候群の症状が有意に改善する、6カ月間投与したところ、過敏性腸症候群の50%が便秘の改善を経験する、などです。

メラトニンと過敏性腸症候群の研究結果をまとめたメタ解析でも、過敏性腸症候群の重症度や痛みに対して効果はあるという結果でした(25)。過敏性腸症候群の治療に、睡眠の管理も重要であることが、おわかりいただけたかと思います。

現在はメラトニン自体は治療薬として認可されていませんが、将来的には治療の選択肢になるかもしれません(註11)

少なくとも日本人の1割が苦しむ症状

この章の最後は、国民的な不調である「便秘」と睡眠との関係を見てみましょう。睡眠が悪いと、便秘がひどくなってしまうのでしょうか。頑固な便秘は、「慢性便秘症」という病名がつけられます。

慢性便秘症とは、体外に排出すべき便を、量においても十分ではなく、かつ快適に排出できない状態が慢性的に続くことです。日本人の約1割が慢性便秘症であるといわれていますが、「便秘ぐらいでは医者に行けない」と思っている人も多いので、実際にはもっといるのではないでしょうか。

慢性便秘症の人を見ていると、毎晩下剤を欠かさず飲んでいますし、何か新しい、よく効く下剤はないかといつも探しています。日中も、毎日便は出ないにせよ、お腹をしょっちゅう気にしている人が多いように思います。

このように便秘は重病ではないのでしょうが、本人にとっては深刻な問題です。ただの「便秘」ではそのつらさが伝わらないのですが、ここでは単に「便秘」という表現で通します。