リニア開業でも東海道新幹線はなくならない

リニア中央新幹線が静岡県内を通るのは、南アルプストンネル内のわずか8.9km区間である。そのため、静岡県はリニア中央新幹線が通過する県の中で、駅を設けない唯一の県であり、経済効果は皆無に等しい。その観点では、静岡県が期成同盟会に加盟する意味は見いだせない。

しかし、リニア中央新幹線が東京から名古屋、その後新大阪まで開通すれば、現在東海道新幹線の「のぞみ」が担う東名阪の移動はリニア中央新幹線へ移行する。その結果、東海道新幹線の役割は大きく変わることになる。

それを具体的に示したのが、2023年10月、国土交通省鉄道局が公表した「リニア中央新幹線開業に伴う東海道新幹線利便性向上等のポテンシャルについて」という資料である。この資料では、静岡県内における東海道新幹線の停車回数の増加、経済効果について具体的な数字を挙げている。

東海道新幹線の収益確保を考えれば、リニア開通後は、現在の東名阪の高速輸送から、首都圏などへの通勤、地域間輸送へシフトしていくと考えるのが自然である。

「リニアが開業しても静岡県にとってデメリットは大きくない」ということまで見据えた上で、川勝氏がリニア期成同盟会に加盟し、着工への妥協点を探っていたのなら、まだ理解はできる。ただ、静岡県とJR東海の間で着工に向けた前向きな議論が進むことはなかった。

「完成は2031年」と当初の4年遅れに

2024年3月29日に開催された第2回の「リニア中央新幹線静岡工区モニタリング会議」にて、JR東海は品川〜名古屋間の2027年開業断念を正式に発表した。

またJR東海は開業時期延期の原因を静岡工区の着工の目処が立たないこととして、その状況から新たな開業時期を見通すことも不可能とした。

開業延期について、周辺自治体、特に長野県の落胆は大きい。

駅が建設される飯田市は在来線と新幹線の乗り継ぎ、高速バスのいずれを使っても東京まで4時間以上かかる。

だがリニア中央新幹線が開通すれば、品川駅まで約45分、名古屋駅まで約27分と、首都圏、中京圏への所要時間が劇的に短縮される。

地元飯田市だけではなく、長野県にとっても、特に県南部地区活性化においてリニア中央新幹線の役割は大きい。

長野県の阿部守一知事は4月1日の定例記者会見で「開業時期が大幅に遅れるとなると、街づくりや企業誘致に大きな影響が出る」としたうえで、JR東海に対しては「単に工事が進まないから開業が延びるということでなく、その間、地元にどんな対応をするのか、説明してほしい」と話した。