店舗数の多さを生かしドーナツ以外の他社商品を売り出していく
このように、動画配信サービスなどを代表とするネット空間では、「プラットフォーマー」の力は顕著である。
翻って考えると、今回のクリスピー・ドーナツがマクドナルドで売り出される、という現象は、「クリスピー・ドーナツ」という「コンテンツ」を、マクドナルドが「プラットフォーム」になって売り出すという現象だと捉えることができるのではないだろうか。
これまでマクドナルドは、「ハンバーガー」や「チキンマックナゲット」「コーヒー」のような「コンテンツ」を売り出す店であった。しかし、今回のコラボレーションによって、マクドナルドは自社の「プラットフォーム」としての強みを再認識するきっかけになるかもしれない。
どういうことか。
そもそも、マクドナルドの「プラットフォーマー」としての強みはどこにあるのか。それは、マクドナルドの店舗網の圧倒的な広さだ。マクドナルドは全米のあらゆる場所に出店し、その数は現在、1万3000を超える(日本国内では2950)。
その立地の良さも見逃せない。マクドナルドは、ロードサイド沿いなどにも出店しており、ドライブスルー型店舗を含めて良い立地が揃っている。ちなみに、マクドナルドのフランチャイズ化を進めた、同社の実質的な創業者、レイ・クロックは、ヘリコプター5台を使いながら、それまでに見つからなかった好立地物件を探したことでも有名である。マクドナルドの立地戦略は、歴史的に見てもプラットフォーマーとして優れていたと言えるのではないか。
一方、クリスピー・ドーナツは人気が高く、「コンテンツ」として非常に優れているといえる。ただ、店舗立地となるとアメリカでもその数はまだ少なく、拡大の余地があった。そのため、優れたコンテンツ力を生かしつつ、プラットフォーマーとしてマクドナルドを使うという道を選んだのだろう。クリスピー・ドーナツにとっては、自社のコンテンツの魅力を、マクドナルドというプラットフォームを通じて、より多くの消費者に届けることができるというメリットがあったといえる。
コンテンツ×プラットフォーム=商業施設の魅力
当然のことだが、ある商業施設の魅力は、「コンテンツの魅力」×「プラットフォームの魅力」で決まる。
コンテンツの魅力とは、商品自体の魅力であり(この言い方はほとんど同語反復的だが)、それがどれぐらい美味しそうか、とか、コスパがいいとか、あるいはブランドイメージがある、というようなことで決まる。消費者は、魅力的な商品を求めて商業施設を訪れる。そして、その商品の魅力が高ければ高いほど、商業施設の集客力は高まるだろう。
一方でプラットフォームの魅力は、店の「立地」や「数」などの観点から決まる。どれだけ便利な場所に店舗があるか、どれだけ多くの店舗があるか、ということが、プラットフォームの魅力を左右する。消費者は、アクセスしやすく、多くの選択肢がある商業施設を好むからである。
この二つの魅力が高いレベルで組み合わさることで、商業施設の魅力は最大化される。つまり、魅力的な商品を、便利な場所で、豊富な品揃えで提供できる商業施設が、最も強い集客力を持つということである(こう書くと当然のことにも思えるが)。
今回のマクドナルドとクリスピー・ドーナツのコラボレーションは、まさにこの「コンテンツの魅力」と「プラットフォームの魅力」が見事に組み合わさった例だと言える。マクドナルドの「プラットフォーム」としての強みと、クリスピー・ドーナツの「コンテンツ」としての魅力が、相乗効果を生んでいるのである。
さらに、これは予想でしかなく、遠い将来の話であるが、今回のコラボレーションがうまくいけば、もしかすると今後、マクドナルドは自社製品の開発を積極的には行わず、他社製品とのコラボレーションを主体的に行うことになるかもしれない(もちろん、ハンバーガーなどの開発は自社で行うだろうが)。