ガザから暴力の連鎖を広げてはいけない

私は、もちろん人道的な観点からイスラエルによるガザでの虐殺を容認しないが、それとは別に、この虐殺が多くのムスリムにジハードの戦士となるきっかけを与えていることの危険性を指摘したい。

ジハードの原義は、信仰を正すための努力だが、パレスチナでここまでムスリム同胞が存続の危機に瀕している場合、その敵(イスラエルだけでなく、イスラエルの自衛権を支持している国々)と戦うことも含まれる。その結果、暴走したジハードの戦士が、欧米諸国が言うイスラム主義のテロリストとなることも考えられよう。

つまり、もとよりあってはならないことだし、一切、テロに走ることを肯定しないが、それが起きうることも「知らなかった」とは言えないのである。2015年1月のパリでのシャルリー・エブド襲撃事件、11月の同時多発テロ、2016年3月ブリュッセルでのテロ、12月のベルリンでのテロ……。

内藤正典、三牧聖子『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』(集英社)
内藤正典、三牧聖子『自壊する欧米 ガザ危機が問うダブルスタンダード』(集英社)

なぜそこで、なぜその時に起きたのかを合理的に説明することなどできない。しかし、各国の治安当局、諜報当局が、何も予想していなかったというのは、言い古されたたとえだが、左手がやっていることを右手は知らなかったと主張するようなものである。

今回の人道に対するあからさまなダブルスタンダードによって、このリスクは各段に上がったと言わざるをえない。そして、欧米諸国に暮らすムスリムは、今後、イスラムに従って生きる自由を公然と求めるだろう。人権、自由、民主主義のすべてにわたって欺瞞ぎまんに満ちたダブルスタンダードを使い続けた欧米諸国に対して、その価値観に追従する必要はないと多くのムスリムが得心したからである。

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