「ガザ難民」はヨーロッパへ流出しない
どこかでイスラエルは軌道修正するだろうか?
そうあってほしいのだが、あそこまで繰り返し、人質全員の解放とハマスの殲滅をセットで言い続けたネタニヤフは、もう後には引けない。しかし、ネタニヤフはガザの住民のみならずパレスチナの住民全員を敵にしているから「目標」は達成できない。
それにもかかわらず、欧米諸国がイスラエルに断固とした姿勢を取らないもう一つの理由は、ガザからは難民が流出しないからである。閉じ込められていて、流出できないし、本人たちも、もはやガザを離れるつもりはない。
ここがシリアやリビアの内戦と大きな違いである。大規模に難民が流出すると、欧米諸国の政権は難民の到来によって治安が悪化し、野党から批判されるのを恐れる。だから、嫌々でも何らかの対応を迫られる。ガザに関しては難民流出の心配をする必要がないのである。
ヨーロッパ諸国で再覚醒したムスリムたち
反面、欧米諸国はテロのリスクを甘く見ている。イラク戦争やアフガニスタン侵攻では、イスラム世界での戦争に加担し、多くの市民を犠牲にした。ヨーロッパ諸国では、ムスリムに対する差別と蔑視は、レイシズムにあたるとはみなされず、容認されてきた。
ここで一つ書いておかなければならないのは、ムスリムの側もヨーロッパに移民してから1970年代までは、宗教色は薄く、世俗的な生活をしていたことである。その後、1980年代以降になって、イスラム世界のイスラム復興の流れと軌を一にして、ヨーロッパでもムスリムとしての再覚醒が始まる。
再覚醒=reawakeningという言葉を使ったのは、もともとムスリムではあった彼らが、確信して信仰を捨てて無神論者にならない限り、何かのきっかけで再度敬虔なムスリムに戻ることは珍しくないからだ。
この傾向は、ムスリム移民がいるすべてのヨーロッパ諸国に共通する。ヨーロッパ社会での差別、パレスチナでの惨状も、再覚醒の十分な動機となるのである。そのことを私は1990年代のヨーロッパ各国での調査から明らかにして、『アッラーのヨーロッパ 移民とイスラム復興』(東京大学出版会、1996年)に書いた。
つまり、1990年代以来、もはや全体では2500万人を超えるヨーロッパ諸国のムスリムは、現在、再覚醒による先鋭化、ジハードに乗り出す契機を十分に得ているのである。