AIクソ上司が牛耳る世の中は、楽しくなさそうだし進化もなさそうです。未来は面白いほうがいいし、イーロン・マスク軍団には素晴らしい上司になる期待感があります。ただしイーロン・マスクやスティーブ・ジョブズの評伝を読んだ人なら、「こんなヤツの下で働きたくない」という暗い感想を抱くはずです。彼らは自分がデキるだけに容赦なくハードルの高い業務を部下に押しつけます。上司としては甚だ不適切なのです。

生成AIの進化のスピードと物量を考えると、AIクソ上司軍団も相当なパワーを持つに違いありません。さらに、起業しても成功する人がごくわずかであることを考え合わせれば、勝率の低いイーロン・マスク軍団と安定した実績を上げるAIクソ上司軍団の戦いは、9勝1敗でクソ上司に軍配が上がるのではないでしょうか。

どちらにしても、明るい未来とはいえなさそうです。そんな中で一般のビジネスパーソンは、どうやって生き延びていけばいいのでしょう。

生成AIは、世の中にすでに存在するものを学習します。映画『タイタニック』のシナリオを学ばせて、「プロットを現代の日本に変えて、同じような悲恋の脚本を作りなさい」と命じれば、簡単に作り出してみせます。それを検討して「前半15分から20分あたりに、ひと山持ってきたい」とコマンドを入力すれば、即座に修正してくれます。パターン化とマンネリこそが求められる『水戸黄門』のようなシナリオなら得意中の得意で、無限にシナリオを作り出せるでしょう。

一方、AIに想像力はなくクリエイティブでもありません。大ヒットしたテレビドラマ『不適切にもほどがある!』のような、それまでなかった独自のコンテンツを生み出すことは不可能です。

ここが、未来の大きな落とし穴になると思われます。クリエイターが新しいコンテンツを生み出せるのは、ある種の下積み時代があって学習を重ねてきた蓄積があるからです。

ビジネスパーソンに置き換えれば、現在の40代や50代にはまだベンチャー精神の名残りがあるかもしれません。しかし、AIと共に育ってきた20代以降からは独創的な精神が薄れ、自分の頭で考える習慣がなくなっていくでしょう。独自に学ぶ機会さえ、失われていきます。長期的に見れば、文化の向上は2024年の段階で止まってしまうかもしれません。

幸福な未来のためにいち早く経験を積め

現段階のAIはまだ見てきたような嘘をついたり、明らかな間違いを答えてきます。しかし嘘をつかれたかどうかの判断は、ある種の年季を積んだ人間でないと下せません。私の場合であれば、経済や経営戦略に関して生成AIが「こういう環境下では、この戦略をとったほうがいい」とアドバイスを出してきたとき、間違いかどうかを一発で見抜けます。この分野に関して、経験と知識の蓄積があるからです。

本当に難しい問題や重要なテーマについて判断するのは、結局のところ人間です。前例がなかったり新しいことを、AIは苦手とするからです。生成AIのもたらす未来がユートピアではないとしても、AIを利用して幸せになる未来を描かなければいけません。

ただ漫然と生きて、さまざまな経験を積まずにいると、テキストを入力してアウトプットされた回答を鵜呑みにする時代にのみこまれてしまいます。私も現代に若者として生きていたら、一日中スマホをいじっていたのではないでしょうか。そうなる前に、「ある種のスキルや知見を身につけるにはどうすればいいか」「いままでより5年早く成長するためにはどうすればいいのか」ということを真剣に考えるときが来ているのです。

こうした事情を踏まえたうえで、生成AIに仕事を奪われたくないビジネスパーソンは、どんな行動を取ればいいのか。私の答えはシンプルで、「一刻も早く生成AIを使ってみる」ことです。使わずに別の能力を上げていくことは、もう考えないほうがいい。望むと望まざるとにかかわらず、使うことが仕事の基本になるからです。

生成AIには、いろいろな利用法があります。手始めとして、「新NISAはやったほうがいいですか」と質問してみてください。「この近所で美味しいラーメン屋を3つ挙げて」でもかまいません。たちまち答えてくれますし、回答の精度もこの1年ほどでかなり上がりました。年配の方が多く参加している講演会で、私は「とにかく一度、入力してみてください。どれだけ役に立つかが実感できます」と話しています。早く身につけるほど、アドバンテージがあるのですから。

企業の経営者や役員など世の中を変えられる立場にいる読者の方々には、どう変えればみんなが幸せになるかを考える責任があると思っていただきたい。最後にこの点を、強調しておきたいと思います。

(構成=石井謙一郎 イラストレーション=伊野孝行 写真=dpa/時事通信フォト)
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