バッテリーの品質保証費用発生を嫌って性能制限か

思うに、「Honda e」本来の性能は総容量35.5kWhのうち30kWhから32kWhを使用範囲とし、急速充電30分で25kWh前後を充電可能というものだったのだろう。それなら人見氏はじめエンジニア陣の大風呂敷にも妥当性が出てくる。

充電中のHonda e
写真=筆者撮影
充電口は急速、普通ともボンネット上に

昨年の東京モーターショーあらためジャパンモビリティショーの会場で別の電動化技術者になぜ「Honda e」をこんな仕様にしたのかきいてみた。答えは長年使用しても新車の時と同じ性能を維持するためというものだった。

バッテリーが劣化した時を見越して新車時からバッテリーの使用範囲を狭め、急速充電のスピードも落としたと解し得る言葉だ。

ホンダは近年、品質費用(商品の異常への対応などで発生するコスト)の増加に頭を悩ませている。「Honda e」での品質費用の発生を嫌い、すんでのところで守りに入ってしまったのかもしれない。

「守り」に入らなければもっと評価されていた

が、これはホンダにとって決していい手とは思えなかった。「Honda e」リリース版の性能では長距離ドライブを快適にこなすことは望めず、シティコミューター(街中での移動に使われる車)専門というキャラクターになる。

価格も、人見氏の構想より100万円高い500万円のシティコミューターなど売れるわけがないし、ホンダのBEVは性能が悪いという先入観をユーザーに植え付けることにもなりかねない。そんな仕様にするくらいならいっそ発売を諦めるべきだった。

もし将来の品質費用の発生リスクを過剰に恐れず、本来の資質をそのまま生かして発売していれば、「Honda e」は今とはまったく違う評価を受けていただろう。

現状でも走り、快適性、小回り性能については文句のつけようがないくらい素晴らしいクルマに仕上がっている。高い価格と電気的性能の悪さでユーザーを遠ざけていなければ、もっと多くの人が「Honda e」に触れてその素晴らしさを体感し、「ホンダはBEVに関してこんなユニークなアイデアを持っているのだな」とプラスイメージを持つケースも出てきたことだろう。