TOPIC-1 仕事の「辛さ」「つまらなさ」を扱う本
今回は引用から始めてみたいと思います。ニュースサイト編集者・PRプランナーの中川淳一郎さんによる『凡人のための仕事プレイ事始め』(文藝春秋、2010)の冒頭です。
「人々が仕事について語る時、何かと前向きな文脈で語られることが圧倒的に多い。企業の採用HPしかり、雑誌に掲載された経営者インタビューしかり、世に多々出版される仕事論の本しかり。ビジネス誌には、やる気に溢れた若手によるキラキラとし過ぎた希望に満ち過ぎたインタビューもよく掲載されている。だが、現実的に仕事ってそんなに夢に溢れているか? 働いている皆さん、そんなことないですよね?」(上掲書、6p)
自己啓発書の研究をしていて、たまに少ししんどいと思うことがあるのですが、それは啓発書があまりにもポジティブ一辺倒に過ぎるからです。中川さんの言葉で言えば「夢に溢れ」「キラキラ」し過ぎているからです。これらを私がしんどいと思うのは、おそらく私がネガティブ一辺倒の人間だからというよりは、ときにポジティブだったりネガティブだったりするような、実に凡庸な人間だからだと考えています。そのような私の日常的な感覚からすると、ちょっとついていけないと思うことがしばしばあるのです。
自己啓発書の目的の一つは、そのような凡庸さから抜け出し、他人から卓越するような成功をつかみ取ることにあります。自己啓発書についていけないとしばしば思ってしまう私のような人間は、成功をつかみ取る権利をそもそも有していないのかもしれません。しかしそれでもなお、中川さんが述べるように、そんなに仕事は夢に溢れ、キラキラしているばかりなのだろうかという疑問は拭えずにいました。
そんな折、電車内で次のような新刊の広告が目に入ってきました。『憂鬱でなければ、仕事じゃない』。ご存じの方も多いと思います。2011年に講談社から刊行された、幻冬舎代表取締役社長の見城徹さんとサイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋さんによる仕事論です。
また、この連載を始める頃には、作家・出版社経営者の木暮太一さんによる『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社、2012)が書店に平積みになっていました。私は見城さんたちや木暮さんの著作タイトルを見て、先の中川さんの言葉で言えば必ずしも「前向きな文脈」ばかりではなく、「嫌なことだってあるよね」という観点からの仕事論もあるのかもしれないと思うようになっていました。
そこで今回はこのような、仕事を前向きにばかりは捉えない――おそらく私だけではない、凡庸な人間の仕事観により近いと考えられそうなタイトルを冠する――仕事論をピックアップしてみたいと思います。