JR東海の最高責任者にプライドを傷つけられた

ただ川勝知事には自信があったようだ。

昔から昵懇だったというJR東海の最高責任者だった葛西敬之・名誉会長(故人)に直談判を要請したのだ。

ところが、あっさりと、面会を断られてしまった。当時の側近によると、これが、知事のプライドをあまりにも深く傷つけたという。

何とかJR東海の翻意を促すよう、その後、川勝知事は反リニアを貫き、水環境の保全、自然環境保全で次から次へと無理難題を持ち出した。

はたからは、さまざまなリニア妨害を続けることで鬱憤ばらしをしているかのように見えた。

今回の4月1日の人事異動で、リニア問題に専念にする「南アルプス担当部長」を新設したことなどを見れば、今後とも反リニアに徹する川勝知事の姿勢に変わりないはずだった。

それなのに、翌日の2日夕方に突然の辞意表明を行ったのだ。

もし、辞職するのであれば、知事職の座をかけて、静岡空港新駅という大井川流域の県民の願いをかなえるのが本来の政治家としての務めである。

知事が頭を下げれば「新駅」の可能性はあった

川勝知事の突然の退場に、JR東海は驚きとともに快哉かいさいの声を上げたのだろう。

それとともに、「リニア問題に区切りがついた」という知事会見を聞いていれば、何のために6年近くも「対話」を重ねてきたのか、JR東海にとっても疑問は大きいはずである。

当然、川勝知事が自身の首を差し出すことを条件にすれば、静岡空港新駅の設置に、JR東海から何らかの譲歩を引き出すことができたはずだ。

知事職には、静岡県の最高責任者という権力者としての重みと権限がある。JR東海はそれを十分に理解していた。

辞職届を懐に携えて、JR東海本社に出向き、丹羽俊介社長と直談判を行うことができた。あるいは頭を下げればよかったのだ。

ところが、川勝知事は知事職という権力者の座の重さを全く理解できないのか、あるいは面倒事を避けたいのか、いとも簡単に放り投げてしまった。

これでは知事というだけでなく、政治家としても「失格」としか言いようがない。