病院に到着した翌日、警察から事故の詳細を説明された父親の勝さんは、思わず怒りがこみ上げたと言います。

「警察によれば、加害者の車(トヨタ・エスティマ)は、瞳に衝突する直前、制限時速40キロの県道を約30キロオーバーして走行していたそうです。しかも、現場は見通しのよい直線道路。普通に前を向いていれば、渡ろうとしている歩行者がいることはわかるはずです。いったい加害者はどこを見ていたのか、どうしても納得できませんでした」

夜になるとライトアップされる彦根城を見ながら、堀端の歩道をウォーキングするのが好きだったという瞳さん。事故発生から4日後の3月12日、両親の懸命の祈りもむなしく、一度も目を開けることなく、息を引き取りました。21歳でした。

坂本瞳さん
写真提供=坂本さん
語学留学でカナダへ行くと両親に報告メールを送った後、事故に巻き込まれた

検察官の一言に遺族は耳を疑った

事故から半年後、加害者の男は「過失運転致死」の罪で起訴されました。起訴状には、以下のように記されていました。

『被告人は(中略)速度を調整せず、考え事にふけって、前方左右を注視することなく、同横断歩道を横断する歩行者の有無及びその安全確認不十分のまま漫然時速約70キロメートルで進行した過失により(中略)横断歩行中の坂本瞳を前方約23.1メートルの地点に初めて認め、急制動及び右転把の措置を講じたが間に合わず、同人に自車左前部を衝突させて路上に転倒させ、よって同人に急性硬膜下血腫の傷害を負わせ、(中略)死亡させたものである』

これを見た坂本さん夫妻は、ある疑問を抱いたといいます。

「事故直後の加害者の供述調書には、『決して居眠り運転はしておらず、左手は肘掛けに掛け、ハンドルは右手で片手で持ちながら運転をしていました』と書かれていました。つまり、自ら片手運転を認めているのです。起訴状には『考え事にふけって』と書かれていますが、ひょっとすると、『ながら運転』の可能性もあるのではないか? そう思ったのです」

そこで、坂本さん夫妻は念のため、大津地検彦根支部に「加害者は、ながらスマホなどではなかったのですか?」と質問しました。

すると、検察官は、

「加害者本人が、スマホは操作していないと言ったので、操作履歴等の捜査や確認はしていません」

そう答えたというのです。

「思わず耳を疑いました。たしかに加害者の調書には、『スマホはコンソールボックスの上に置いており、触ったり、操作等は絶対にしていません』という供述が記載されていました。しかし、前方不注視で被害者死亡という重大事故を起こしているのです。加害者本人が、触っていないと言えば、なんの裏付け捜査もせずにそれを鵜呑みにしていいのでしょうか」(勝さん)