潰れそうな人間には相応の仕事を与えよ
第一国立銀行をはじめ指導的立場で500社前後の企業の設立・発展に貢献した渋沢栄一氏は、『論語と算盤』の中で先輩には2種類の人間がいると書いている。
一方は「何ごとも後輩に対して優しく親切に接する人」で、決して後輩を責めたりいじめたりせず、どんな欠点や失敗があっても庇護する人である。
もう一方はこれと正反対で、「何か少しの欠点が後輩にあれば、すぐガミガミと怒鳴りつけ、これを叱り飛ばして、完膚なきまでに罵り責める」人である。
では、どちらが後輩にとっていい先輩か。好かれるのは前者であるが、後輩のために真の利益になるかどうかは疑問であると渋沢氏は指摘する。後輩の奮発心を削いでしまうからである。
逆に、「後輩をガミガミと責めて、常に後輩の揚げ足を取ってやろう」とする先輩が上にいれば、その下にいる後輩は「一挙一動にもスキを作らないようにと心掛けるようになる」。
すなわち、部下に奮発心を起こさせ、育成につながるのは後者である。その意味において、後輩に厳しく接するのは教育の一環と言えよう。
厳しく接すれば潰れる人間も出てくるだろう。しかし、その潰れる人間のことを考えて経営をしたら間違える。強靱な人間をどうつくっていくかが経営である。潰れそうな人間には叱る必要はなく、むしろ潰れないような仕事を与えるのが本当の親切であろう。そのためには、叱る相手のことをよく理解しなければならない。
堀場製作所の創業者、堀場雅夫氏は叱る前日から相手に理解させるにはどういう手順で話したらよいかを考え、叱った後は「わしの言った意味がわかったやろか」と思い悩むという。そのため、部下をこう叱ったことがある。
「おまえを5分叱ることで、おまえはわしを2時間も3時間も占有したんやど。わかっとるやろな。わしがもうなにも言わんようになったら終わりや。わしが叱ってるのは、おまえに期待しているからや」(『仕事ができる人できない人』堀場雅夫)
ただし、叱るという行動は、誰がやっても効果がすぐ表れるほど簡単ではない。人によって叱りの効果や反応は大きく異なってくる。