ブーム時の主要な層は「あまり教育を受けていない」

「親」の成功を見てきたのだ。それを踏襲したい、家族親族の期待と出資を受けて独立するからには失敗できないという気持ちも強いだろう。だからある程度うまくいっていた前例をそのままコピペして、安心感を得る。

加えて「独立ブーム」の中で2005年以降に日本に来たコックやその家族は「あまり教育を受けていない人が多いんです」と語るネパール人もいる。それゆえか、店の経営にも工夫が見られないという。

かつてはインテリ層や、日本人と結婚していて日本の社会インフラをフル活用できる人々が「第1世代」の中心だった。彼らはカトマンズやポカラといった都市部の出身でしっかり教育も受けており、観光や婚姻を通した日本とのつながりも確固としていて、日本に対する知識もあり、日本への親近感や憧れが来日理由の根底にあった。

しかし「第2世代」からはずいぶんと違ってくる。国外に出稼ぎすることが「主要産業」となってしまっている田舎出身で、教育機会に恵まれなかった人もけっこう交じっている。そんな彼らの中には「親族がいて、稼げるらしいから」という理由だけで日本に来る人も多い。言ってしまえば、日本でなくてもよかったのだ。

ビザが簡単だから、稼げそうだからと日本に来ては、この国の社会制度もよくわからないまま、むやみやたらにコックとその家族が増えていく。そこにやっぱりゆがみが出てきてしまう。

インドカレー
写真=iStock.com/Ibuki
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ネパール人を搾取するネパール人も

で、「第1世代」と「第2世代」の格差が、また別のビジネスを生んでいく。

「たとえば、店を持ちたいけれどビザの手続きがわからない人に行政書士を紹介する。経営のことはサッパリという独立志望のコックに税理士を紹介する。そして仲介料を取る。そういうネパール人も出てきたんです」

こう話すのはネパール人Bさんだ。日本での暮らしのほうがネパールよりもずっと長いという人で、カレー屋も持っているが、ほかにもインド料理関連の食材の卸や、在住外国人向けのSIMカード販売なども手がけている。その傍らで、開業したいネパール人と、そのための諸手続きを担う日本人の専門家とを結ぶ仕事もしているという実にマルチな人なのだ。

「ほかにも、店舗を借りて内装を仕上げて、独立したい人に引き渡すなんてビジネスをやってる人もいますよ。メニュー表をつくったり、有線の契約までしてあげてね。どこそこのラーメン屋がつぶれて空いたぞ、なんて話を聞くとすぐに行って大家と交渉して、居抜きで借りてくる(笑)」

それに「家族滞在」で呼んだ妻のアルバイト先をあっせんする人もいるそうだ。もちろんマージンをもらい、派遣会社にカレー屋やコックの妻を紹介する。ついでに言うと、コロナ禍のときは各自治体や国の飲食業に対する支援金や貸しつけの手続きをあっせん、代行した人々もいたという。