FBIの人質交渉人は、どうやって犯人を投降させているのか。ペンシルベニア大学のジョーナ・バーガー教授は「『大人しく出てこい』のように自分の要求を突き付けてはいけない。大切なのは犯人に『話を聞いてもらっている』と思わせることだ」という――。

※本稿は、ジョーナ・バーガー『THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術』(かんき出版)の一部を再編集したものです。

電話を盗聴する捜査官
写真=iStock.com/Vadym Plysiuk
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異質なSWAT隊員の異質な質問

グレッグ・ヴェッキはFBIの捜査官だ。

専門は違法薬物の取引、マネーロンダリング、恐喝など。彼が追う人物の多くは筋金入りの犯罪者で、かなり暴力的だ。メデジン・カルテルにヘリコプターを売る人物もいれば、ロシアの潜水艦を中古で購入し、コロンビアからアメリカにコカインを密輸している人物もいる。

そのときグレッグは、あるロシアン・マフィアを追っていた。3年にわたって電話の盗聴を重ね、丹念に捜査を進めて証拠を固めていった。そしてついに逮捕状が出ると、グレッグはSWAT(警察の特殊部隊)を呼び寄せた。完全装備の屈強な男たちが数十人で現場に乗り込み、犯人を取り押さえ、証拠を確保する計画だ。

SWATチームを前にしたグレッグは、計画実行にあたってさまざまな注意点を伝えた。容疑者はもしかしたら武装しているかもしれない。少なくとも危険であることはたしかだ。SWATチームは間違いが起こらないように慎重に話し合い、具体的な逮捕計画を練り上げた。1つでも失敗があると、現場はあっという間に暴力の嵐になってしまう。

ブリーフィングが終わってチームが部屋を出たが、1人だけ残っていた。グレッグは彼の存在に気づいていた。SWAT隊員にしては異質だったからだ。太めで、背が低く、頭は禿げている。とてもアメリカ警察が誇るエリート部隊の一員には見えなかった。

「犯人について教えてくれ」と、その男は言った。「もっと詳しい情報が欲しい」