中国は「台湾有事」のシミュレーション中
では、中国はどうでしょうか。結論から先に言えば、様子を見ています。
中国は2005年に「反分裂国家法」を制定し、台湾が独立を宣言した場合には「非平和的手段」を講じても阻止する、としました。これが「台湾有事」、すなわち中国が台湾に対して武力を行使する可能性です。
もし中国が台湾を攻撃したら、世界はどのように対応するのか。このシミュレーションをするために、中国はロシア・ウクライナ戦争をモデルケースのように観察しています。
各国は、日本も含めてロシアに経済制裁を科しました。ところが制裁の効果は、それほど出ていません。ロシアには石油や天然ガスなどのエネルギー資源が豊富にありますし、小麦などの穀物も大量に収穫できる。自給自足できるのです。むしろ経済制裁を受けたことで、自給自足できることをロシア自身が確認したと言ってもいいでしょう。
たとえばスターバックスは2022年5月23日、ロシアのウクライナ侵攻を理由に、ロシア国内の130の店舗を閉鎖して撤退すると発表しました。しかし従業員は残り、店舗も「スターズ・コーヒー」という名でリニューアルオープンしました。
マクドナルドも同じ頃、「ロシアから恒久的に撤退する」として850の店舗を閉鎖・売却しましたが、ロシアの実業家が買い取り、「フクースナ・イ・トーチカ(おいしい、ただそれだけ)」と名称変更して再開しています。このように、世界からの経済制裁があっても、ロシア国内の生活は実質的な影響をあまり受けていないのです。
ロシアと中国の立場が完全に逆転した
いま中国は、この様子を見ています。もし中国が台湾に侵攻したらどうなるか。――当然、経済制裁などで打撃は受けるだろう。しかし、すべての国が経済制裁に同調するわけではないし、グローバル・サウス(インド、インドネシア、トルコ、南アフリカほか、南半球に多いアジア・アフリカなどの新興国・開発途上国)は静観するだろう。さらに一帯一路で中国との貿易によって成り立っている国々も経済制裁に参加しないだろう――。こうした分析・予測を冷静にしているのだと思います。
ロシアは現在、親中国、さらに言うなら“中国頼り”になっています。2023年10月18日には、わざわざプーチンが北京にやってきて、習近平国家主席と会談しました。ロシア産の石油や天然ガスを、もっと中国に買ってもらうことが最大の狙いです。このときは一帯一路構想の提唱から10周年を祝う国際会議が開かれていたのですが、プーチンは主賓扱いでした。
かつて中国を緩衝地帯に置こうとしたロシアはいま、中国への依存度を高めつつあります。両者の立場は完全に逆転したのです。